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立石の飲み屋街を訪れる [B級グルメ雑感]

 マイク・モラスキーの『呑めば、都』を読んでから、無性にその本に書かれていた飲み屋を訪れたくなり、立石に赴く。立石には数回、訪れたことがある。ただ、ここ5年間ぐらいは行っていない。そのイメージは大阪の通天閣下のようなディープな雰囲気で、地元の飲兵衛を対象とした、肩を寄せ合って座りながらモツ煮を肴として安酒を飲む、小さなお店がいくつも集まっている、といったものである。さて、5年ぶりに訪れた立石であるが、以前のイメージとほとんど変わっていなかった。というか、昭和のレトロな闇市的な飲み屋街というのがアイデンティティであるから、この5年で変わってしまうようでは駄目である。
 さて、今日はゼミの飲兵衛の卒業生を数名、誘って飲みに行くことにしたのだが、皆、仕事があるので「宇ち多“」にて各自、19時30分までは勝手に飲む、というように待ち合わせをした。仕事がない私が一番はじめに到着して、一人でテーブルに着き、勝手に宝焼酎の梅割と煮込み、レバーを注文して飲み始める。
 この店では、見えない掟があるかのように、皆、しっかりと飲んで食べることに集中をしている。もちろん、グループで来ている人やカップルの間では多少の会話があったりするが、基本、ここは安酒を飲む場所であるということは、相当、空気を読めない客でも分かるような、そういう緊張感が空間には充満している。また、カップルでと書いたが、基本、カップルは相当、割合的には少ない。私もこの店では何しろ存在感を消し、うまく、店に馴染むように努力をしている。
 20分ぐらい経って、社会人3年目の男子ゼミ卒業生がやってきた。すると、「連れがいる」と店員に言っている。中年の店員は「そういうなら、店に入る前に待ち合わせをしないと駄目だろう」と怒っている。私は手振りで「一人で飲め」と伝えようとしたのだが、その行為で、中年の店員さんに気づかれ「あの人か」と卒業生に確認を取り、本当しょうがねえなあ、という顔をしつつ、たまたま空いている卓があったので、そこに移らせてもらった。移った後も、「連れがいるなら店に入る前に待ち合わせをしないと困るんだよね」と言われて、私は卒業生に「そういうことだから一人で飲んで全員が揃うまで待つと言ったのだ」と小言を言ったら、学生も申し訳なさそうにしていた。とはいえ、まあ、彼の空気の読めなさ故に一緒に飲めることになったので、ある意味ではついている。私ではとても言えない。
 さて、この店は19時30分に閉店で、そこでもう一人の女子ゼミ卒業生がやってきたので店を移る。おでんの「二毛作」に入ろうとしたが、予約で満席の状態で、「みつわ」に行ったらこれも長蛇の列。しょうがないので北口の「鳥房」へ行ったら閉まっており、「江戸っ子」はもう食べ物が切れたので、今日は店じまい。ということで、仕方なく、「江戸安」といういかにも町のお寿司屋さんというところに入る。まあ、特別なお寿司屋さんという感じではないが、気っぷのいいおじさんと若い青年の二人の板前が元気よく握っている様子は、二人漫才とか卓球のダブルスのコンビのようで、みていて気持ちよく、思わずいろいろと注文をしてしまう。なぜか、アワビの刺身が1000円という破格の安さだったのでおそるおそる注文したら、しっかりとアワビでしかも美味しかった。そして、そのアワビより値段が高い赤貝の刺身(1200円)があり、アワビでこれだけしっかりしていたら、赤貝はとてつもなく美味しいのでは、と注文したら、これは美味しかったが普通の赤貝であった。日本酒を中心に飲んで、3人で結構、たくさん飲み食いをすると、4人目の女子卒業生がやってきたので、店を出て、モラスキーがどんなに満腹でも不思議に食べられてしまうと『呑めば、都』で書いていた中華料理店の「蘭州」に行くが、ここはもう店仕舞いの時間であった。我々はお腹いっぱいだが、今来たばかりの卒業生は何も食べていないということなので、隣の「オオクボ」という居酒屋に入る。他は客でたくさんなのに、なぜか客が誰もいなかったのがえらく不安だったが、入るとごく普通の居酒屋であった。他の町だったら、それなりにお客さんも入るのではないかと思われるが、これだけ飲み屋だらけの立石であると、もしかしたら商売が厳しいのかもしれない。
 人と酒を飲むのは会話を弾ませるためである。当然、私とゼミの卒業生ということなので、本人の話はもちろん、今日来られなかった卒業生達の近況なども聞くことになる。数名、転職をしたそうだ。まあ、本当に仕事は大変だ、と卒業生達はぼやくが、このことは本当に学生の間に上手く伝えられたらと思うのだが、なかなか学生はそれを聞いてくれないのが残念だ。結局、あまり向いてなさそうだな、という仕事に就いて、早い時期に辞めてしまう。などという話をしていたら、あっという間に23時30分過ぎで終電の時間になったので、岐路についた。なかなか楽しい立石のはしご酒であった。

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(北口の飲兵衛横丁)

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(南口はディープな飲み屋がぽつぽつと凄まじいオーラを発揮しつつ散在している)


呑めば、都: 居酒屋の東京 (ちくま文庫)

呑めば、都: 居酒屋の東京 (ちくま文庫)

  • 作者: マイク モラスキー
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/08/08
  • メディア: 文庫



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