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岩手県の住田町を訪れる。 [サステイナブルな問題]

 岩手県の住田町を訪れる。ここは、陸前高田からちょっと山に入ったところにある町で、陸前高田や大船渡で被災した人達が住むための仮設住宅地が3つほど設けられた町である。
 もともとは宿場町として栄えたそうだ。町を気仙川が流れている。この気仙川に沿って、宿場町が成立するのだが、川側からみると豪勢な蔵が建ち並んでいる。宿場町というのは、随分と儲かったんだな、と妙なところで感心する。

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(気仙川から世田米の蔵を眺める。世田米というのはアイヌ語が語源らしい)

 住田町の人口は2005年〜2010年までに10%弱減少した。1970年には人口が1万人以上あったのだが、それからほぼ毎年500人ぐらい減っている。まあ、宿場町として発展したため、宿場町としての機能を失ったら町としての存在意義はなくなるので、他の産業を興すなりしなくてはならないのだが、町役場の人にお話を聞いたところ、特別な産業はないとのこと。しかし、ホームページをチェックすると「森林・林業日本一の町」を目指しているそうだ。
 さて、産業というか雇用がないと、住田町のように大都市のベッドタウンとして位置づけられない町村の将来は暗い。東京の魅力はいろいろな機会を与えてくれることだ。ただ、その機会を上回る収入が得られるような仕事が地方にあれば、多くの人々は東京ではなく地方を選ぶ。猿払村や長野県の川上村のように年収が4000万円、2500万円もらえるような仕事があれば、そちらを多くの人々は選ぶ。なぜなら、金銭はいろいろな機会を購入することを可能とするからだ。
 しかし、そのような収入が得られないようであれば、選択肢が多く、いろいろな機会も多い東京を人は選ぶことになるだろう。
 最近、ちょっとショックを受けた記事を読んだ。それは、福島県の広野町から避難した中学生が、なぜ広野町に町民が今でも戻らないか、その理由は「放射能が怖いというよりかは、避難先の方がずっと便利だから」と述べたことを紹介する記事であった。ショックであると同時に、そういうことなんだな、ということを理解もした。
 人々は、より効用の高いところに住もうとする。もちろん、郷土愛やらの心情も大きく左右するかもしれないが、そもそも原発を建設することを許可するような人々にそれほど強い郷土愛があるとは考えられない。より利便性の高い都市に引っ越せるのであれば引っ越したいというのが本音であろう。
 さて、話を住田町に戻す。住田町の平均年収はそれほど高くない。公務員だと520万円ぐらいだ。24歳で農業を始めた人は、売上げが400万円くらいだそうである。一方で、物価だが、例えば東京に比べるとガソリン代はずっと高い。しかも、自動車での移動距離は東京とは比べものにならないほど長いので、ガソリン代の出費は相当のものになるだろう。バスは不便このうえないので、ほとんど使い物にならない。さらにイオンのお陰で(ここらへんは震災後、イオンだらけになっている)、全国的に流通している低価格のトップ・バリューを買えるようになったが、これは逆にいえば、物価が東京などの大都市とほとんど同じであるということだ。住田町の方が東京より安いものを探すのは意外と困難である。居酒屋の料金もほとんど変わらない。住宅は明らかに安いが、それぐらいかもしれない。役場の人もそう言っていた。
 住田町を紹介してくれた私の東京出身の知人は、「お金では買えない豊かさ」を強調していて、私もそういうものがあるだろうな、と分からなくもないが、広野町の中学生が鋭く指摘したように、「便利さ」という効用は一度、手に入れるとなかなか手放したくないものだ。特に、アクセス関係の利便性、すなわちアクセシビリティは、ケビン・リンチも都市の魅力を構成する5大要素の一つであると指摘したが、まさにその通りであると思われる。
 このアクセシビリティという点で、地方は大いに劣っている。自動車でそれが改善されるかと期待して道路などを一生懸命整備してきたが、高齢者だらけの町、村でいくら自動車での移動を確保しても、それはあまり意味がない。
 住田町は施策として、お見合いなどをしているそうだが、問題は恋愛機会が欠如しているのではなく、そこの町に住みたいと思わせる理由が希薄であることだ。現在、町に唯一存在する住田高校が閉校の危機にある。これは県立高校なので町としてはどうにもならないかもしれないが、どんなに道路を一生懸命整備するより、このような高校を維持させることの方が、将来の町にとって必要である。というか、将来、町が存続していくためには必要である。この高校を廃止すれば、さらに人口流出は加速化していき、町は遠くない将来、消滅するかもしれない。岩手県はそういうことまでシミュレートして、高校の廃止を決断しようとしているのか。単なるバランス・シートだけを見て判断しているのであれば、県という行政機関が必要かどうかも疑いたくなる。
 など、いろいろと考えさせられた住田町の訪問であった。
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