SSブログ

『人口減少時代の地方都市再生』を読む [書評]

 古今書院の『人口減少時代の地方都市再生』を読む。岐阜大学の地域科学部の先生を中心としてまとめられた学術書であり、岐阜市という都市のしっかりとしたケース・スタディの成果がまとめられている。開発志向の規制緩和・公共事業から、環境や財政の制約のもとでの成長管理の転換が模索され、成長管理を通じて資産価値を保全し、都市間競争において質的に優位に立とうとする戦略が展開されている中、岐阜市がどういう方向性を獲得すべきなのか。その方向性に関しては、他の識者の考えを紹介しているのに過ぎないが、方向性を獲得することが必要である、というバックグランドの情報、データはこの本による研究でしっかりと整理されている。
 非常に地道で手間がかかるフィールド・スタディが著者達によって、なされているのだが、このフィールド・スタディの成果はなかなか迫力をもっている。その一方、定量的な調査、既存の調査の整理などもしっかりとなされており、本書によって岐阜市が抱えている課題の大きさ、そして、なぜそのような課題を現在、有しているのか、その背景を多面的に理解することができる。地理学というのは、こういってしまうと失礼だが、あまり我が国では存在感が薄い印象を受ける。しかし、本書によって地理学のアプローチというのは、今後の都市や地域づくりにとって有効であることを再確認させられた。こういう学術書は値段が高いことや、マーケット・チャンネルもしっかりとしていないこともあり売れないが、しっかりと世に出されることの社会的価値は大きいと思う。私はフィールド・スタディの講義を大学で担当しているのだが、是非とも教科書に使うことを検討したい良書であると思う(しかし、現実的には価格が高いので難しいだろうが)。古今書店にはこれからも、こういう良書を出すことを期待したい。
 この本で初めて知ったのだが、ある雑誌で県都と政令指定都市を合わせた49都市の「将来性」ランキングで岐阜市は最下位となったことがあるそうだ。その原因は、人口や製造業などの成長性の低さと、外部からみたイメージ想起率などの認知度の低さにあった。私も以前、岐阜出身のゼミ生が、岐阜のイメージ調査をテーマにするというので、それはいいと指導したのだが、学生は途中で挫折してしまった。このゼミ生の研究成果があれば、また本書もより、興味深く読むことができたかもしれない
 

人口減少時代の地方都市再生―岐阜市にみるサステナブルなまちづくり

人口減少時代の地方都市再生―岐阜市にみるサステナブルなまちづくり

  • 作者: 富樫 幸一
  • 出版社/メーカー: 古今書院
  • 発売日: 2007/09
  • メディア: 単行本



nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0