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カールスルーエ・モデル [都市デザイン]

カールスルーエ・モデルはトラムと郊外電車を共同運行するようにしたシステムで、東京や大阪で私鉄・国鉄が地下鉄と乗り入れをしているようなシステムであるが、トラムという路面電車と郊外電車との乗り入れというところが画期的である。そんなことは広島電鉄でもしているではないか、と言う指摘はあるが、同じ企業体である広島電鉄と違って、直流・交流、法律、運営主体の違いなどを克服して実現されたこと、さらにはそれによって市域を越えたバスとも一体化した広域の公共交通ネットワークを構築できたことが、なかなか画期的なことと評価されている。私も、トラムと郊外電車のいいとこ取りのシステムで、人口密度の高い都心部では小回りが利くトラムのメリットを活かし、人口密度の低い郊外部では郊外電車の高スピードと移動の快適性を活かす、というなかなか優れたシステムであると思う。人口30万人をわずかに越える都市で、これだけのモビリティを確保できていることは大いに感心する。ただ、公共交通事業としては大赤字だろうから(というか、公共交通で赤字事業じゃないところが日本以外であったら本当に紹介してもらいたい。アジアにはあるかもしれないが、欧米では皆無である)、公共交通の赤字を受け入れられないという世界的には希有な日本においては、実現は不可能であろう。だから、多くの日本の役人とかが視察に来ているがほとんど実は無駄な視察となる。
それはともかくとして、このカールスルーエ・モデル、なかなか複雑でよく分からない。いろいろと論文や運営会社のホームページを読んだりしても理解ができない。これは、私が理解力に欠けているから、ということもあるかもしれないが、複雑だと思う。そこで、カールスルーエに来て、このトラム・トレインを乗り回して、理解を深めるようにした。また、この視察をして疑問を感じた点は、できればカールスルーエの交通会社に頑張ってアポでもいれて明らかにしたいと考えている。
さて、分かってきたのはカールスルーエ・モデルと一言で言っても、それは幾つかのシステムが重ね合わされており、決して、完全に統一されたシステムではないことである。そこにはトラム・ネットワークと郊外鉄道(Sバーン)・ネットワーク、さらにはカールスルーエ市が取得したアルバタール鉄道という地方鉄道のネットワーク、それにドイチェ・バーンのネットワークもちょっと前までは加わっていた。ドイチェ・バーンのネットワークはもう外れたので考慮に入れなくてもいいが、このトラムとSバーン・ネットワークのシステムの重なりは留意しなくてはならない。というのも、それらのシステムが合体して、大きなシステムをつくっているというよりかは、それはトラム・トレイン(カールスルーエ・モデル)とトラムという二つのシステムによって構成されていると考えるべきだからだ。ここでトラムは基本、Straßenbahn と訳されており、車両数も少なく、低床である。
それに比してトラム・トレインは車両も場合によっては6車両も連結されており、どちらかというともうトラムというより郊外鉄道線にむしろ近いくらいである。しかし、都心部に入るとトラムと同じ軌道を共有する。したがって、郊外鉄道線がトラム路線を走っていると考えるのが妥当だと思われる。というのも郊外鉄道の車両がトラム路線を走っている訳ではなく、郊外鉄道を走ることのできるようにトラム車両を改良した路線が、システム上を走っているというイメージだからだ。そして、トラム・トレインの車両は相当、立派なので、一部のトラム路線は走れないようにも思われる。曲率半径が短すぎると厳しいのではないだろうか。いや、これは確認が必要であるが。
そして、このトラムと郊外鉄道とをどのように結ぶかであるが、線路を新設している。例えば西部にあるヴォース市と結ぶ路線(S5線)は、カールスルーエの市域内のラインバーグ・シュトラッセ駅までは既存のトラム路線が走っているが、そこから先は新しく線路を敷設し、郊外鉄道(ドイツ鉄道の線路)と接続できるようにしている。
一方、東北部とを結ぶS4線は、ドイツ鉄道のデューラッハ駅を過ぎて、それまではここが終点(というのも転回用の線路が残っている)で、その先はおそらく新規で路線を敷設していると思われるのだが、しばらくはずっとドイツ鉄道とは別のトラム・ライン専用の軌道を走っている。そして、この路線をつくった時に新たにいくつかの駅も新設していると推察される。ダーラッハ駅から2駅目のグロッツィエン駅でドイツ鉄道(郊外鉄道)の線路と平行に走り始め、3駅目のグロッツィエン・ウーバーシュトラッセで東北部に向かうS4線とそのまま東に向かうS5線とが分岐する。ここからは、なんと複線が単線になる。ここからは、郊外鉄道の路線と合流し、しばらく行くと再び複線となる。ここらへんは丘陵地の美しい森の中を走って行く。ベルリンのように丘陵のないところから来ると、丘の緑が目に優しい。この路線はそのままハイルブロンまで行く。ハイルブロンに行くと驚くことに、その都心部までドイツ鉄道と分岐してトラムとして走行する。これは、なんと新たにトラム路線を新設したものだそうだ。ハイルブロンは、以前はトラムが走っていたが戦後、すぐに廃線にしている。それを何と21世紀になって復活させたのである。
南部はS7線が走っているが、これは中央駅からアルブタール鉄道のカールスルーエ駅を経由して、トラム・トレインの路線を走り、ラスタット駅で再びドイツ鉄道と合流する。トラム・トレインはドイツ鉄道と同じ路線を走っていても、こまめに駅を新たに整備したりしているので、利便性は大きく向上している。
これまでカールスルーエには何回か来たこともあり、実際、話も聞いたりしたことがあったのだが、なかなか頭ではしっくりとこないことが多かった。公共交通を調査するうえでは、とりあえず乗って経験する、というのは私が尊敬する中村文彦先生の研究アプローチであるが、実際、乗って分かることは多い。というか、乗ることによって疑問も多く、出てくる。今回、初めて強い問題意識を持って訪れ、実際、乗車して見えてきたことがたくさんある。「書を捨て、町に出よ」というのは、公共交通研究者にとっては不可欠な姿勢であるな、ということを、公共交通を必ずしも専門としない私だが思った次第である。

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