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野矢茂樹『大人のための国語ゼミ』 [書評]

『論理トレーニング』の著者である野矢茂樹氏の著書。『論理トレーニング』はゼミ生の卒論指導の副読本で使っているのだが、大学一年生の基礎演習の教科書として使えるかなと思い、読んでみた。結論、これは相当、教科書として優れていると思う。国語をなぜ学ぶのか、国語を鍛えることの必要性などが、じわじわと分かってくる。最後の難波博孝氏との対談で著者は「でも真面目に、国語教育が変わることで、日本が変わりうると思っているんです」と述べる。そして、「人間が成熟してくるということの大きな側面は言葉が成熟するということです。言葉が未熟だったら、人間も未熟なままです」とも述べる。
 言語が人格を形成する、というのはその通りだと思う。私はいい加減なバイリンガルであるが日本語の人格と英語の人格は異なる。そして、英語の人格の方が浅はかであるが、ちょっと人がいい。とはいえ、トランプ支持者よりは、日本語での思考力がしっかりしているのでいろいろと考えることは出来る。したがって、トランプのいい加減なロジックは見抜けることができる(いや、私の拙い英語脳でも分かるかとは思うが・・・)。
 トランプは言語力が極めて低いが、これはむしろ、トランプ支持者との円滑で表層的なコミュニケーションを可能としている。アメリカの民度の低さは英語力(国語力)の低さにあるのだなあ、というようなことをこの本を読んでつくづく思ったりもした。


増補版 大人のための国語ゼミ (単行本)

増補版 大人のための国語ゼミ (単行本)

  • 作者: 野矢 茂樹
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/10/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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『大阪アースダイバー』 [都市デザイン]

東京地域を対象とした「アースダイバー」の大阪編。東京編も相当、面白かったが、この「大阪アースダイバー」の方が著者である中沢新一の分析力が研ぎ澄まされているとの読後感を覚える。大阪という都市は関東ものからするとなかなか分からないが、本書では大阪という地域を解析するうえでの貴重な切り口を提供してもらった気がする。エピローグで著者が書いているように「東京のセンスで大阪を見ようとすると、いろいろなものを見誤る」と捉えられる。そして、東京において成長によって生じた様々な齟齬を大阪では解消するような知恵を有しているとも思われる。ただ、肝心の大阪が東京的な眼鏡をしてしまって、迷走しているのは気になるが。


大阪アースダイバー

大阪アースダイバー

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/28
  • メディア: Kindle版



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『今井町 甦る自治都市』 [書評]

奈良県橿原市にある今井町。全建物数約1500棟のうち、約500棟が伝統的建造物であり、これは全国で最も多い地区である。この今井町の住民が、どのように町並み保全に至るか、その経緯を関係者への取材等を通じて明らかにした力作。素晴らしいルポルタージュである。
 本の最後の方で、東大名誉教授である渡辺定夫氏が、「今井町は当然、世界遺産」と述べたのが印象に残っている。そもそも国が重要伝統的建造物群保存地区制度を策定したのも、今井町の保全が前提となっていたそうだ。しかし、自治都市としての長い伝統を持つ今井町の住民は上からの押しつけ的な制度に抵抗し、それが1993年に選定されるまで、制度ができてから18年も経っている。当然、第一号として指定されるべき条件を満たしていたにもかかわらず、いろいろと紆余曲折があった。それは、人々が生活する空間をいかに保全するかの難しさを物語っていると同時に、住民の意向というのが、まちづくり、都市計画において極めて重要であることをも示唆している。
 このような本がしっかりと世の中に出たことは、今井町の記録としての価値だけでなく、まちづくりや都市計画の難しさを理解するうえでも極めて価値があることだと考えられる。そして、この住民とそれを取り巻く人々との葛藤の積み重ねがあるからこそ、今井町の現在の姿の有り難みがさらに実感できる。そして、その遠回りとも思えるようなプロセスを経たからこそ、今井町は博物館ではなく、今でも歴史都市として現役の姿を維持しているのだ。


今井町 甦る自治都市―町並み保存とまちづくり

今井町 甦る自治都市―町並み保存とまちづくり

  • 作者: 八甫谷 邦明
  • 出版社/メーカー: 今井町町並み保存会
  • 発売日: 2020/12/03
  • メディア: 単行本



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