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ラーメンはなぜ人を惹きつけるのか [B級グルメ雑感]

ラーメンは歴史が浅く、いわばまだ戦国時代である。ご当地ラーメンも、喜多方ラーメンが1920年代、尾道ラーメンなどは戦後である。ラーメンまちづくりを現在、展開している山形県の南陽市の赤湯温泉も50年前は、現在も食べログ百名店の龍上海を始め3〜4軒しか町にラーメン屋がなかったようである。さて、この歴史の浅いということは、まだ流儀というか正しいスタイルが確立されていないということで、完成形のようなものがない。しっかりとしたお茶の世界のようなブランドが確立されていないのである。クラシック音楽に比べてのロック音楽のような自由度、創造性を受け入れる余地がラーメンにはある。ラーメン店はほとんどが個店で、これらの個店は麺の作り方やスープの作り方に拘る。そして、それをレシピのような形で表に出さないし、また他人にも教えない(ために教える人もいるが極めて例外的)。伊丹十三の映画『たんぽぽ』でラーメン店の女主人が美味しいスープの秘密を探るためにあれこれ試みるシーンがあるが、まさにラーメン店の秘密主義を示している。これは、例えば日本蕎麦なんかとの大きな違いである。
 そのような状況であるために、学歴や家柄も関係ない公平な勝負のできるステージがある。裏千家にお金を払ってステータスを得るというような必要性がないのだ。人気のラーメン店の主人が元暴走族だったり、いわゆる青年時代にアウトロー的な人が多いのは、このステージが、まさに下克上が可能なジャパニーズ・ドリーム的なプラットフォームを提供している証拠でもあり、それゆえに多くのドラマを生むし、そのようなドラマを我々、消費者も期待している。
 つまり、味も進化しているので、常にその進化した味を確認するために店を探し、訪れなくてはならないし、新しい情報を収集しないと、ラーメン動向は分からないという面白さがある。また、下克上ごめん的な武将ならぬ店主が常に上を目指して競うというロマンは、単に味ではなく、ストーリー消費の魅力を孕んでいる。グルメ雑誌もラーメン特集は鉄板であると言うが、それは情報が常に更新されるだけでなく、そのお店の背景にある個の魅力、その人のロマンに人は惹きつけるからではないだろうか。ラオターと呼ばれるラーメンオタクは、おそらくラーメンという食事以上のものを、ラーメンを啜る時に消費しているからこそ、ラーメンに惹きつけられているのではないかと思われる。

タグ:ラーメン
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南陽市のいもせ食堂 [B級グルメ雑感]

南陽市には4つの高評価のラーメン屋がある。龍上海と葵、いもせ食堂とまるひろである。南陽市を訪れ、そのうち葵といもせ食堂を訪れ、またいもせ食堂では店長にお話まで聞かせていただいた。
 さて、南陽市のラーメンの特徴とは何か。それは、ラーメンの特徴がないということだ。例えば、長浜ラーメンであれば豚骨細麺、京都の一乗寺であればどろどろ鳥豚骨、尾道ラーメンは醤油スープに平打ち麺などの特徴がある。南陽市は、そのようなラベリングができないそうだ。これが、おそらく南陽市がご当地ラーメンとしてこれまで知られてこなかった理由であろう。もう一つの特徴は、ほとんどの南陽市のラーメンは20年以上経営しており、老舗が多いということだ。
 お話をしてもらったいもせ食堂もそのような老舗ラーメン店の一つである。2019年に開業してから57年目になるそうだ。現在の店長は二代目である。一代目が使っていた粉に二代目がつくった太麺。赤湯に限っての話になるが11軒中10軒が自家製麺をつくっており、麺にはうるさいお店が多いそうだ。そして、それらの多くがちぢり麺で、隣接している米沢ラーメンと全然、違う。いもせ食堂も麺に凝っている。平打ち麺であるが、手で揉んでいる。
 ここの味噌ラーメンを食べたが、麺は確かに相当、美味しい。スープは一代目からは違っているそうだ。なぜなら、ガラをつくっていた業者が潰れたりしたからだ。しかし、できる限り、先代からのスープをずらさないように留意しているそうだ。
 南陽市というか赤湯に限った話かもしれないが、ラーメンは歴史が浅い。赤湯にはそば屋とうどん屋があったのだが、一代目が始めた時は龍上海と3〜4軒ぐらいしかなかった。赤湯は温泉街。旅館の中に食べるところがない。締めのラーメンを食べるために、旅館の外のラーメン屋に温泉客が訪れるというようなパターンもあった。赤湯の観光の主流は、熊野大社に参拝して赤湯温泉に泊まるというものであったが、このような観光客はだいぶ少なくなっている。
 一方で、これは赤湯だけに限った話でなく、山形全体でいえると思うが「出前の文化」である。そして、お客さんのもてなしとして、ラーメンを食べさせて喜んでもらうというものがある。子供達もお客さんが来るとラーメンが食べられると喜んだ。これは、他に外食するものがなかったことの裏返しともいえる。
 15〜16年前、イオンが出来、またベニマルが出来たのだが、その結果、極端に夜の客が減ったり、出前が減ったりした。いもせ食堂において、セットものとかを提供し始めたのはその頃からだ。
 ラーメンの魅力としては、自分の個性を出したい人がラーメンをつくる。お互いに教えない。結果、拘りを持つ人が多い。そうでないと同じような生そばのようになっている。ラーメン屋はサムライ。まとめようとしても、まとまらない。結局、自分の主張が強い。それが魅力だけど。「個性」がある。一つ一つの顔が見える。レシピが分からないというのも魅力。
 いもせ食堂は元旦でもやっている。これは、帰省したお客さんが訪れるからだ。赤湯では、おせち料理が逆に提供されない。
 ラーメンの外食消費量が一番高い山形県で、その中でも一番消費量が高いのが南陽市。その統計的な背景が垣間見れた気がする。
 
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(いもせ食堂の辛味噌ラーメン。美味)
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ラーメン課のある山形県南陽市を訪れる [地域興し]

山形県南陽市にラーメン課がある。ということで、そんなおかしな自治体があるのか調べに行った。さて、南陽市役所に行き、このラーメン課を訪れると、どうもラーメン課というものはなく、南陽市みらい戦略課企画調整係内の事業「南陽市役所ラーメン課R&Rプロジェクト」であることを知る。流石にラーメン課はないか。ただ、我々だけでなく北海道の自治体も視察にそれで来たりしたそうであるから、我々だけが間抜けという訳ではない。
 さて、南陽市がなぜ、ラーメンでまちづくりをしたかというと、そのきっかけは中学生・高校生に「南陽市外の人に伝えたい南陽市の魅力は?」とアンケートで聞いたところ「ラーメン」との回答がベスト4に入ったからである。ちなみに1位はさくらんぼ、2位はラフランス、3位はワイン。「ラーメン」というのは市役所の人からすると「目から鱗」であったそうだ。というのも山形県は全国で最もラーメンの外食回数が高い県である。これは、お店だけでなく、店屋物でラーメンを注文する人が多いからだそうだ。山形では、お客さんが来た時におもてなしとして、ラーメンを注文するそうだ。別にちょっと伸びていようが気にもしないらしいから、本当、皆、ラーメンが好きなのかもしれない。逆に、うどんやそばといった補完財的なものの消費は少ないそうである。この、あまりにも日常に溶け込んでいたラーメンなので見落としていたが、確かにこれはイケるかもしれないと市役所の人は思ったそうである。県境を越えた福島県にある自治体はラーメンで全国的ブランドの喜多方市である。しかし、南陽市の人が喜多方市でラーメンを食べても、全然、感動しないそうである。それどころか、「宮内(南陽市の集落)の方がうめえっぺ」と思うそうだ。また、南陽市には食べログの東日本百名店が一軒ある。龍上海である。しかし、喜多方市には一軒もない(坂内食堂もまこと食堂も2019年2月時点では入っていない)。しかも、そのような仕掛けをしている自治体は少ない。
ということで、2016年にプロジェクトが発足したのである。まず、始めたのがラーメン会議。そして、ラーメン会員を募った。そして、ラーメン屋での写真を募ったフォト・コンテスト。さらには、ラーメン屋のカードを期間限定で配布したりもした。フォト・コンテストはそれほど上手くいかなかったが、カードに関しては、人々の収集癖を刺激したようで、結構、うまく行ったようだ。ラーメン・マップなども東北芸術工科大学の学生とコラボして作成している。これは写真ではなく、敢えて絵を描くなどして味を出そうとしている。
 このラーメンでまちづくり事業。成果は得られているのだろうか。近々に行われた中間報告ではあるが、平均でみるとラーメン店の売り上げは増えているそうだ。埼玉や群馬から来ているお客さんが増えている。商工観光課への取材では、マクロでの効果は見られていないというクールな回答ではあったが、やらないよりはプラスということは言えるのではないだろうか。
 課題としては、なぜラーメン屋ばかりに贔屓をするのか、という他業種の人達がクレームをしてくる可能性があることと、このラーメンを目当てに訪れた人を赤湯温泉に泊まらせるなどの波及効果をどのようにもたらすか、その仕組みを考えなくてはいけないことであろうか。
 とはいえ、例えば、私は喜多方のそばに行くと(例えば会津若松や磐梯高原)、ちょっと足を伸ばして喜多方まで行き、ラーメンを食べたりはする。また、ラーメンという地域ブランドをつくった喜多方市のメリットは結構、大きいものがあるような気がする(あくまで印象論であるが)。そのようなことを考えると、他業種のメリットは少ないだろうが、このラーメンでまちづくり、意外とそんなにバカに出来ないような政策かもしれないなと思ったりもした。

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(赤湯駅を下りると長いラーメンの広告が出迎える)

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(南陽四天王の一つ、葵)

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(葵のメニュー)

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『そして私たちは愛に帰る』 [映画批評]

トルコ系ドイツ人映画監督ファティ・アキンの『そして私たちは愛にかえる』を観る。イタリア系映画のような、ペーソスに溢れた人生劇である。優秀な息子とダメな親爺、ドイツとトルコで離れ離れで暮らす売春婦の母親と反政治活動に身を投じている娘、そしてオープンな世界観を擁するドイツ人の母親と娘。この三者三様の片親と親子が、お互い関係することで大きく、彼ら・彼女らの人生は展開していく。それは、悲劇的ではあるが、その悲劇が展開する過程でこれら他人が知り合うことで観ている側は救われる。違う国籍、違う価値観の人々が交錯することで、無情にも人が死んでしまうという理不尽の中でも、人は明日に希みを持つことができるような印象を観る者に与える。ラストシーンの静かな映像は百の言葉より多くのことを語る。


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イタリアの世界遺産「マテーラ」を訪れる [都市デザイン]

イタリアのバーリに同僚が在外研究で来ているので、図々しくもバーリへと訪れた。さて、バーリのそばには二つの住宅系の世界遺産がある。アルベロベッロとマテーラである。どちらかに連れて行ってくれると言うので、マテーラに行くことにした。マテーラへはバーリからだと鉄道で二時間ちょっとかかる。のんびりとした単線のローカル線で、車窓はオリーブ畑が延々に続く感じである。

マテーラはマテーラ県の県都であり、人口は約6万人である。2019年には欧州文化都市にも指定されている。そのような比較的、しっかりとした都市の旧市街地にサッシと呼ばれる洞窟住居がある。この洞窟住居が世界遺産なのである。マテーラの旧市街地はグラヴィナ川がつくった谷の石灰岩の丘陵地に発展した。ここに8世紀から13世紀にかけて、修道僧が洞窟住居をつくり、住むようになったそうだ。19世紀頃からは、貧しい小作農民がここに住むようになり、家畜とともに生活し、上水・下水もしっかりと処理できていないという劣悪な環境の中で住民は暮らすようになっていたそうだ。そして、1950年代にはこの住民は行政により強制的に郊外に新築された集合住宅に移住させられ、この洞窟住居は放っておかれるのだが、1993年に世界遺産に指定されると、これらの住居を再利用する人が増え始めているそうだ。

実際、訪れると、カフェなどに利用されているだけでなく、洗濯物が干されていた住宅もあったりして生活している人もいるようであった。どの程度、改修されたか不明だが、雨水の流れなどはそれなりに考えているように思われるが、下水はどのように処理できているのかなどは不明である。

どことなくアメリカのコロラド州のアメリカ・インディアンの居住跡地であるメサ・ベルデ国立公園を彷彿させる。まったく、アメリカ・インディアンと当時のマテーラの人達が交流する筈はないのだが、人間が考えることは似ているものだなとも思ったりもした。いや、丘陵地に住宅を掘ってつくるという点がということですが。

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(マテーラの洞窟住居の展望)

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(世界遺産に指定されていることもあり、ペンキなどは勝手に使えないそうである)

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(洞窟住居の跡地)
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『トラブゾン狂騒曲』 [映画批評]

トルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督によるエコロジカル・ドキュメンタリー。
トルコ北東部にあるトラブゾンという村にごみ処理場がつくられる2007年から2012年までの5年間を丁寧に追求してつくられたこのドキュメンタリーは、環境問題の普遍的な本質を鋭く描いており、観るものの心を揺さぶる。その本質とは、環境問題は無責任な人間がつくり出すということである。無責任であるから、その問題を予見することもしなければ、それを解決しようともしない。日本の原発問題とも通じる、このトルコのごみ処理場の問題は、しっかりと時系列的に新たな問題が出てきた時に、それに対して地元住民とそれを管理する側の環境省がどのように対応するかを見事に記録している。ポイントとしては、原発問題もそうだが、一度つくらせたら地元は負けるということである。トラブゾンも多くの住民がそこを去って行くことになる。日本の地域も、まったくもって対岸の火事ではないこの環境問題。必見である。

トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~ [DVD]

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ヴォージュ広場というパリの宝を台無しにしている道路 [都市デザイン]

パリで最も美しい広場と言われているのは、バスティーユのそばにあるヴォージュ広場である。ブルボン朝初代のフランス国王であるアンリ4世によって、パリを新しいローマにすべき1605年に建造が開始された、パリで最初の計画的に設計されてつくられた広場である。その設計とレイアウトに関してもアンリ4世は随分と口出しをしたそうで、パリという田舎をローマのような格を持たせるために彼が手がけた幾つかの都市プロジェクトのうちの一つである。この広場を囲む建物はすべての方向で9戸であり、高さなどは統一され、その調和は特別な空間をつくりだすことに成功している。

さて、確かに素晴らしい広場ではあるのだが、美しいアーケードもある建物とこの広場の間に無粋な自動車道路が通っている。つまり、広場は自動車道路の囲まれているような状況であり、建物と広場を行き来するのに、この道路を渡らなくてはならない。それだけでなく、この道路には路上駐車が両側でされていて無粋このうえない。美しい広場と美しい建物と自動車はまったく景観的にもマッチしない。なんてもったいない。一昔前のロンドンのトラファルガー広場を彷彿させる人に優しくない空間だ。やはり、フランスは都市デザインではヨーロッパの中では後進国だな、と呆れた気分になりつつ、いや、私が考えるぐらいだから、パリの人達も同じような気持ちをおそらく抱いているだろうと思い直す。というのも、前から思っていたのだが、バスチーユ広場とかマドレーヌ広場とか、自動車中心で歩行者をバカにしたようなランドアバウトを大きく改善させて、歩行者動線を改善し、より歩行者を大切にするような空間づくりをプロジェクトで進めていることを知ったからだ。

ということで、そのうち、当然、このヴォージュ広場を台無しにしている広場を囲む自動車道路もどうにかなるだろう。というか、ただ、自動車を通さなくすればいいだけの話だ。なぜ、ここに道路が必要なのかも分からない。駐車場が必要であれば地下駐車場をこの広場につくればいいだけの話だ。出入り口をどこにつくるのかが難しいというかもしれないが、それこそバスチーユ広場当たりに設置すればいい。ちょっとアクセス道路が長くなるかもしれないが、このパリという都市の宝をしっかりと守り、その価値をさらに高める意義を考えれば費用対効果はとてつもなく高いものとなるであろう。

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(パリで最も美しいといわれるヴォージュ広場)

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(しかし、その美しい広場と美しい17世紀の建物の間には無粋な道路がつくられている)

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(空間の連続性が台無しにされている)

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(しかも路上駐車の自動車が景観的にマッチしていない)

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(ヴォージュ広場に行く際にもこの道路を横断しなくてはならない。これも無粋)
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トランプ大統領があぶり出すアメリカ像 [トランプのアメリカ]

トランプ大統領が就任してから2年が経つ。当選した当時は、このままでは世界が大混乱すると予測し、持っている株をほとんど売ったりするなど結構、狼狽したが、まだそれほどの混乱がなく世の中は回っている。トランプ大統領のこの2年間を顧みて、何が見えてきたのか。それは、むしろトランプがアメリカの問題ではなく、彼のような詐欺師が、詐欺師であるのに分かっているのになおかつ支持をするアメリカ人が3割いるという事実こそが問題であるということだ。

トランプのような嘘つきを、その嘘が嘘であることを分かっているにもかかわらず、確信的もしくは盲目的に信じる人々が多いという状況は、民主主義を崩壊させる。それは、ナチス政権が民主的に支持された状況を彷彿させるが、現在のアメリカは報道の自由や表現の自由が認められている中での、トランプ支持であるから状況は深刻である。というか、これまでこのような事実ではないことを事実であると主張できる人達が3割以上いる国の方針に従って日本は政策をほぼ決定してきたのかと思うと愕然とする。真実の重要性を強く思うし、事実に則って議論することの重要性を改めて再認識する。

人類が崩壊するとしたら、事実を認められなくなった時であろう。そのような脆い状態にアメリカはあったということをトランプ大統領はあぶり出した。それは、決して日本や世界にとっても喜ばしくないなと思うのと同時に、SNSが民主主義を崩壊させるツールとして使えることを見抜いたロシア政府の驚くような狡猾さには度肝を抜くしかない。

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王寺町の「嘘からまこと」のラーメンで街づくり [都市デザイン]

奈良県に王寺町という自治体がある。ここは、大阪のベッドタウンで大和川沿いの谷を中心に発展した来た町である。面積は7キロ平米と随分小さい自治体だが、山がちであるために可住地面積は4キロ平米とさらに小さい。その結果、人口は24000人ぐらいだが人口密度が高く、また工業用地がないため第三次産業の従業者が91%を占める。都市構造的には勝手にコンパクト・シティである。鉄道とともに発展してきた町ということもあり、政策としては駅のブランド化を意識していて、駅周辺にマンションを建てていきたいと考えているそうだ。ううむ、コンパクト・シティは面的だけでなくても高さ面でもコンパクトがいいと考えている私としては、ここらへんは中央政府から本家のEUのコンパクト・シティと違った方向に進んでいるな、と懸念していた私だが、ここ王寺町も面的にはともかく高さ的には全くコンパクトではない都市づくりを目指しているようだ。

歴史はあるが、その町の歴史が現在の町へと上手い具合に繋がっておらず、山を切り開いてつくられたニュータウン的色彩が強い町である。さて、そのような町であるから、町としてのアイデンティティは弱く、人々の愛着は薄いし、知名度も低い。そのような課題を克服するために王寺町が取り組んだのはゆるキャラによる街づくり、そして次いでラーメンによる街づくりである。ゆるキャラは雪丸という犬で、聖徳太子の飼い犬という設定である。これは王寺町の名前が聖徳太子が建立した放光寺に由来しているからだそうだ。この雪丸は、王寺町のアイデンティティの欠如を埋めるように人気を博し、昨年度のゆるキャラ・グランプリでも11位になっている。王寺町を知らなくても雪丸を知っている人が増えている。さらに、雪丸のドローンを博報堂に委託して100万円でつくったりするなど、話題づくりも上手い。税金を使って100万円というのもどうかな、と思うがその広告効果を考えると100万円の効果は余裕であるだろう。王寺町を知らなくても雪丸を知っている人は増えている。雪丸をフックとして、観光客が増えることも期待しているそうだ。確かに雪丸が好きな人は放光寺に観光というパターンはできるかもしれない。私も聖徳太子に飼い犬がいたことや、聖徳太子が王寺と関係しているなどは王寺町を調べなければ知ることはなかった。

さて、ゆるキャラはともかく、それではなぜラーメンなのか。これは王寺町役場が町民に何が町に欲しいかのアンケートを行ったら、一番がラーメン屋であったことが大きな理由である。ちなみに二番はカフェであった。王寺町は関西本線が走っており、近畿鉄道の駅もあるので公共交通の便がよいため小売業は集積しているのだが、いかんせんフランチャイズ店が多い。これは町民にとっては必ずしも悪いことではないが、外から王寺町に来たくなるような発信力のあるお店ではまったくない。そこで、ラーメンをゆるキャラに次ぐ、地域ブランディングのツールとして考えることにしたのである。しかし、王寺町にはラーメンというコンテンツはない。ないから町民がアンケートで欲しいと回答したのである。いや、正確にはない訳ではない。「名物王寺ラーメン」という比較的、ラーメン通には知られていたスタミナ系ラーメンのお店が駅の北側にあったことはあった。しかし、ほぼ個店はここだけである。ということで、ラーメンの町というイメージは王寺町にはほとんどなかった。なんか、敢えて例えると、サッカーの日本代表の補欠になった選手が一人いただけで、サッカーで街づくりをしよう、みたいな無理無理感がある試みである。

さて、しかし、これが驚くことに上手くいく。それでは王寺町は何をしたのか。王寺町では2018年3月11日から7月31日にかけて、王寺ラーメントライアルというイベントを行った。これは、王寺でラーメン店の開店を目指す店主が、長年空き店舗であった王寺駅北口にあった居酒屋を改修した店で、期間限定でラーメン店の営業に挑戦するという企画である。
これには4店がチャレンジするという構想であったが、最初の1店は1日のみで、これは広告塔のような効果で有名店が開店したというものであった。その後は、Namaiki Noodle、麺屋やまひでの2店が出ただけで、結果的にNamaiki Noodleが優勝。その後、この店が会場であった空き店舗で2018年10月からラーメン屋を開業する。このお店は鶏白湯のスープの細麺で、個人的には奈良ラーメンのイメージに沿ったラーメンである。店主は奈良の鶏白湯ラーメンで有名な麺屋NOROMAで修行をしていたそうだ。このラーメンイベントは、2018年12月に県政策自慢大賞に輝く、という名誉を受ける。まあ、政策を自慢するという時点で公務員の仕事への意識に問題を感じない訳ではないし、表層的で短期的な視点の政策ばかりに公務員の関心がシフトしそうで心配ではあるが、王寺町にとってはこれは追い風となった。

そして、次に仕掛けたのが関西ドリームマッチという人気のラーメンイベントで、その第三回目を王寺町で誘致したのである。そして、まさに先週末の四日間(2019年2月8日〜11日)に開催した。このドリームマッチのどこがドリームかというと、関西の錚々たるラーメン店がコラボをするところが、ドリームだそうである。まあ、敢えてコラボするぐらいなら、そのレシピでつくれよ、という気もするが、ラーメンオタクにはなかなか嬉しい企画だそうである。このようにラーメンでまちづくりを仕掛けて1年、まともな個店のラーメンが一店舗しかなかった王寺町でなんと大規模なラーメンイベントが開催。その宣伝効果はとてつもなく大きなものがあったと推測される。

このようにして、特産品もほとんどなく、観光資源が少ない王寺町は「嘘から出た誠」のようなブランド戦略で、知名度を上げていったのである。これが成功した要因の一つとして、やはりラーメンをコンテンツにしたことはあったかと思う。なぜなら、まずラーメンは歴史が浅いので老舗といってもたかが知れている。まだ、発展途上の食べ物である。そして、応用が効く。例えば豚骨ラーメンは、スープをつくっている時、店主がうたた寝をして煮込みすぎたことで発見されたし、味噌ラーメンは札幌のお店で味噌汁にラーメン入れてよ、という無茶ぶりからつくられた。そのように考えると、まだまだその可能性は広がる。そして、少ない資産で勝負でき、それに勝てば実入りも大きいギャンブル性の高いビジネスであるので、男のロマンを駆り立てやすい。そこには、また学歴社会的なものが入ってくる余裕もない、実力主義的なところが、日本人の武士道にも通じる何か魅力を放っているような気もする。ここらへんは仮説ではあるが、ラーメンというコンテンツの魅力と、即興で地域ブランドをつくれてしまうという事実を王寺町で知ることができた。くまモンの熊本県ほどではないが、なかなか上手くやった(税金を無駄遣いにしなかった)自治体による地域ブランド創造政策ではないかと思う。

人口が縮小していく中、コミュニティを強化させるうえでは、その地域のアイデンティティを強化させていくことは極めて重要である。その強化において、ゆるキャラ、ラーメンといったコンテンツを使うことは、意外と有用なのかもしれないな、ということを考えさせられた。もちろん、ダメダメなゆるキャラを取りあえず、つくっていたり、税金を浪費してゆるキャラ・グランプリのナンバーワンを金で買う(静岡県のH市のことですね)ようなことはあってはならないとは思うが。

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(ナマイキラーメン)

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(ラーメントライアルの会場となった居酒屋。今はナマイキラーメンのお店になっている)
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今更ながら『E.T』を観る [映画批評]

今更ながらであるが『E.T.』を観る。一昨日、恥ずかしながら『ハムレット』を初めて読んだのだが、最近、社会常識として著名な本とか映画の内容を知っておかなくてはまずいみたいな気分になっているからだ。さて、E.T.は少年とその兄弟と宇宙人との交流の物語だが、子供達の純な優しさのようなものが心を打つ。流石、大ヒット作は良質だなと思ったりもしたが、あの宇宙人のデザインは悪い。これは、スター・ウォーズなど他のハリウッド映画にもいえることだが、なんで円谷プロのように格好いいというか、より個性的な宇宙人がつくれないんだろう。ピグモンとかの方がずっと存在感がある。というか、私がこれまでE.T.を観なかったのは、あのヘンテコなデザインの宇宙人に抵抗を覚えていたからだ。その気持ちは映画を観た後も変わりは無い。
 あと、新生チャーリーズ・エンジェルのドリュー・バリモアが子役で出ているのだが、その演技は驚くほど上手い。いや、天才子役という形容が大袈裟ではないぐらいだ。私はなんでドリュー・バリモアがこんなに俳優として引っ張りだこであるのかが不思議だったのだが、それの理由はここにあったのかということに気づいた。
 また、舞台はロスアンジェルスの郊外であるが、この郊外で暮らす少年の生活を見事に演じていたかとも思われる。多くのアメリカ人が郊外で生活をするようになった1970年代当時の新しい郊外でのライフスタイルや価値観(離婚を含む)などをうまく表現しているようにも思える。郊外の希望が幻想であったのかとアメリカ人が気づき始めた時代感、イーグルスが『ホテル・カリフォルニア』でカリフォルニアへの人々の期待を皮肉った時代感を表現しているようにも感じた。そのような不毛な地にちょっとしたファンタジーを展開させることは、アメリカ人の心の琴線に触れたのかもしれない。


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