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上高地にて猿の大群と出会う [地球探訪記]

焼岳に登り、その下山中、雨に降られる。森の中に入っていたので直接は雨が当たらなかったが、雨だと匂いを消すし、音もそれほど届かなくなるので下手したら熊に遭うかもしれないな、とちょっと不安になる。と思った矢先に、森の中にはホー・ホーという綺麗な鳴き声が樺の森の中にこだましている。これは、てっきり鳥が鳴いているのか。と思った。雨の中でも鳥は鳴くものなんだと思っていたら、何か強烈に監視されている気がして、そちらの方に目を向けると、結構、大きな猿が木から私の方をじっと凝視していた。
鳥の鳴き声と思ったのは猿の鳴き声だったのだ。そして、猿は私という侵入者がいることを仲間達に知らせるために雨の中だが鳴いていたのだった。私は猿にはトラウマしかない。高校一年生の時、小豆島を一人で旅していて森の中を歩いていたら、猿に囲まれて、猿に観光ガイドを取られたことがある。大人になった後もバリ島で、猿に襲われ、眼鏡を取られそうになったことがある。眼鏡を取られたら、自動車に乗れなくなる。これだけは避けなくてはならない、と緊張する。緊張はしても、この森は通り抜けなくてはならない。バスの最終は16時なのだ。時間的には余裕はあるが、それでもまだ2時間弱は歩かなくてはならないだろう。
とはいえ、猿も私に対して警戒心を持っているだろうから、そうそう何もすることはないだろうな、と思った矢先、私の横を一匹の猿がとんとんとんと、すり抜けていった。少しは警戒心を持てよ!というか、猫並みの人に対しての無防備さであろう。飼い犬だって、そんなことはしない。唖然として、私の横を通り抜けていった猿を目で追っていると、猿は私から8メートルぐらい行ったところで止まって振り返り、私の方をじっと見る。私を威嚇するようなことはしないし、声も出さなかった。私も歩を止め、これから何が起きるのか、どきどきしながら猿を見つめる。
ここで私は何をするべきか。威嚇をするべきなのか、どうするべきか。そこで、私は「猿でもコミュニケーションが大切だろう」と思い、猿に話しかけることにした。
「ちょっと、横を歩かなくてはいけないんだけどどいてくれないかな」。猿は相変わらず、私の方を凝視している。
「俺の言ってることが分かるだろう。通してくれよ」
すると、猿は前を見ろ、というようなジェスチャーをする。そこで前方をみると、多くの猿の群れが、私が語っている猿の先の登山道を横切っていくのであった。中には乳飲み子を抱えた母親猿もいる。私は何となく合点がいって、彼らが通り過ぎていくのを待っていた。写真に撮りたかったが、ここで一眼レフを取り出すと、彼らの警戒心を高めるかと思って、ぐっと我慢をした。この猿の群れが通り過ぎた後、見張り役の猿も登山道から離れて森の中に入っていた。
私はそれを見て、また下山をし始めた。しばらくすると、また私の前にさっきとは違うが猿がやってきてじっとこちらを見つめた。私は、さっきのように「通りたいんだけど」と止まりながら話すと、今度は後ろを見ろ、というようなジェスチャーをする。後ろをみると、さっきの群れから遅れたのか、母親猿と乳飲み子が登山道を横切っていった。私はそれをさっきとは違うような優しい気持ちで見送った。母猿と子猿が森に入っていくのを追いかけるように監視猿も森の中に入っていた。
猿に出会った時、対立をせず対話をしようと思ったことが功を奏して、事なきを得た。このとき、チワワのようにきゃんきゃん泣き叫ぶような行動に出たら、もしかしたら猿の攻撃を食らったかもしれない。異文化コミュニケーションという言葉があるが、動物とでもコミュニケーションは大切なことを知る。というか、ある意味で、人間とよりも上手くコミュニケーションができた気もする。結構、コミュニケーションができないような人間もいるからな。このように冷静に行動できた背景には、年を重ねたということもあるが、数年前にアフリカで野生のゴリラに遭遇した経験が大きく活きているかと思う(下記のブログ参照)。
https://urban-diary.blog.ss-blog.jp/2014-08-15
このときに、ゴリラの精神性の素晴らしさを知った。野生動物が常に攻撃的であるわけではなく、むしろ仙人のような澄んだ心の持ち主だということを知ることができたので、今回の猿との遭遇でも、相手を威嚇するというよりかは、むしろ自分の立場を理解してくれという態度に出ることができた。そして、相手の置かれた状況を理解しようとしたことが、結果的に事なきを得たのではないかと思っている。
ちょっと時間は取られたが、無事に下山でき、最終バスにも乗ることができた。

タグ: 焼岳
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