SSブログ

『柳川堀割物語』 [映画批評]

スタジオジブリの作品。3時間に及ぶ大作である。福岡県柳川市に張り巡らされる水路。これが近代化と土木国家によって汚され、その結果、蓋をされ消滅させられそうになったのだが、一人の柳川市職員の問題提起によって、水路の下水道工事計画が白紙に戻り、それを役所と住民の共同で再び清い水が流れる水路を復活させた経緯、そして、その流れの中で伝統的なコミュニティの紐帯が再び強化されていったというノン・フィクションの物語である。美しい映像、アニメを交えた水路の仕組みを分かりやすく説明する工夫、キーパーソンである広松伝氏や古賀元市長への取材、丁寧な構成と柳川市の堀割を再生した過程、背景がよく理解できる内容となっている。ある意味で、スタジオジブリ作品の中でもノン・フィクションのしっかりとした記録といった側面から大変、重要な価値を有するものかもしれない。
 広松氏はこの映画の中で「成功できたのは過去を共有できるだけの「思い出」の資源があったからだ」という。人々が蘇らせたい過去を共有できたことが、成功の原因であるというのは示唆的である。組織がまとまってある方向に行くには、共有する価値が必要だと考えるが、その共有する価値をこの柳川市は幸い、有していた。
そして、下水道工事を中止した後、役所と住民は協同してヘドロに覆われた水路の浚渫を進めていく。この住民の愛、コミットメント、そして住民達と役所の連帯があって初めて柳川の堀割は再生できたのである。貴重な記録である。
貴重な記録という点では、「川や堀は私たち市民すべての共有財産」ですと柳川の市報に書かれたのをみて、県や国は目くじらを立てて怒ったことが映画では示された。彼らからすると、川は国や県のものだそうだ。こういう馬鹿な人達がいるから、日本の美しい風土は壊されてきたことがこの映画からも分かる。そのようなトレンドに見事に抗い、柳川はその環境、風土、そしてコミュニティの連帯を維持することに成功したのである。柳川市の人々の「煩わしい水」との共存する姿勢にも頭が下がるが、これを見事、映像として記録に残したスタジオジブリ、そして高畑氏にも頭が下がる。素晴らしい作品で、多くの人に見てもらえるといいかと思う。


柳川堀割物語 [DVD]

柳川堀割物語 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
  • 発売日: 2003/12/05
  • メディア: DVD



nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0