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『第三の男』 [映画批評]

今更ながらであるが、1949年のイギリス映画『第三の男』を観る。第二次世界大戦後の混乱のウィーンを舞台にした映画で、光と影のコントラストが観るものをスクリーン(パソコンのだが)に惹きつける映像美、どちらにストーリーが転ぶか分からないシナリオの秀逸さ、そして映画史に残るような印象的なラストシーン。
善悪が不明瞭な戦後の混乱期の中で、単純な正義感と愛情、友情といった個人的価値観で行動するアメリカ人の主人公の偽善的ないやらしさを、最後のラストシーンで一刀両断に切り捨てるアンナ・シュミット。このラストシーンは、相変わらずアメリカ的価値観で世界と渡り合えると考えているアメリカ国家への強烈な竹篦返しのように私には受け止められ、快哉を叫びたいような気持ちになったが、小説のラストシーンでは、アンナはアメリカ人主人公を受け入れることになっていることを知り、なんかとても残念な気分になった。しかも、小説ではアメリカ人であったギャングが、映画ではルーマニア人の設定になったのは、悪役の一人がアメリカ人であることを出演者の一人のオーソン・ウェルズが嫌ったためだそうだ。
しかし、小説のラストシーンでは、なんか白けた感じが残ったであろう。アンナの毅然とした態度によって、このストーリーはとても締まる。このラストシーンを主張したのは、プロデューサーのデビッド・セルズニックであったそうだ。
勝てば官軍的な戦争の中、何が正しくて何が正しくないのか。第三者には分からないいろいろな事情がある。『第三の男』は、素直に考えればハリーを指しているが、私的には、直接関係ないよそもので第三者であるホリーの鼻持ちならない偽善的な存在を、ハリー率いるギャング団とそれを追いかける国際警察という関係性と関係ない『第三の男』、もしくはハリーとアンナというカップルに入り込もうとした『第三の男』として表しているようにも感じた。
そして、そのように捉えることで、この映画の魅力がさらに引き立つようにも思ったりもした。


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