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早池峰山(日本百名山33座登頂) [日本百名山]

盛岡市のホテルに前泊して、レンタカーで早池峰山へと向かう。早池峰山には二つの登山ルートがある。河原坊コースと小田越コースである。ただし、河原坊コースは現在、通行止めであり、小田越コースしかルートはない。駐車場があるのは河原坊コースである。したがって、河原坊コースから小田越コースまでは車道を歩かなくてはならない。登山に来て、興醒めするのは車道歩きである。車道を歩くのであれば都会でもできる。そして、河原坊の登山口から小田越の登山口までは上りで40分、下りで30分もかかる。さて、しかし、である。というか、ここに書くのは相当、躊躇するのだが、小田越コースにも駐車場はあるのだ。ただし、10台ほどしか駐車することはできない。そして駐車できなければ河原坊まで戻らなくてはならない。しかし、ここに駐車できれば往復で1時間以上も節約することができる。ということで、ホテルを早朝4時過ぎにでる。盛岡市から早池峰山の登山口までは意外と時間がかかる。これは、アクセス道路が相当、悪路であるからだ。しかし、個人的にこの悪路は期待感を盛り上げてくれるので嬉しい。舗装がしっかりとされた道路ですいすいと登山口に行くのは楽かもしれないが、登山の楽しみや期待感を大きく萎ませる気がする。やはり、人里離れた大自然に行くにはアプローチがそれなりに遠い方がいい。
 さて、河原坊コースに到着すると、まだ駐車場の空きは多い。ここでも駐車できないと、はるか下の岳集落で駐車をしないといけない。しかし、今日は土曜日で晴天好日であったが、まだ6時前ということもあり、小田越の駐車場にて駐車できなくても河原坊の駐車場には駐まれるであろうと判断し、小田越の駐車場に向かう。さて、運良く小田越の駐車場には駐車することができた。朝日が素晴らしく、清々しい凜とした空気が周りを包み込んでいる。そして、南側には薬師岳、北側には早池峰山が屹立している。
 早池峰山は環境保全が徹底しており、登山ルートにはトイレがなく、また、そこらへんで用を足すことが禁止されている。そのため、携帯トイレを携行しないといけない。この携帯トイレは登山口で販売されている。ちなみに、私は常に持参しているので買わなくて済んだ。また、登山口にある管理人事務所にはトイレがあり、トイレットペーパーも置かれているので、是非ともここで用を済ましてから登山するといいとお節介ながら助言したい。
 登山口を出発したのは6時15分。美しい樹林帯の中を歩いて行く。人工物が一切ない大自然の懐に抱かれているような気分になる。このような気分になるのは、モンタナ州とかイエローストーン、アラスカなどでは感じたことがあるが、日本では強いていえば知床の羅臼岳に登った時ぐらいであろうか。こういうところが本州にあるというのを知っただけでも、今回、ここに来たことがある。私の34回の登山経験の中でも希有の素晴らしい自然体験である。早池峰は環境保全が厳しい理由を分かったような気がする。
 さて、樹林帯を抜けると、蛇紋岩の岩道となる。二週間前に登った尾瀬の至仏山も蛇紋岩の山であるが、こちらの蛇紋岩は至仏山より遙かに巨大である。登山路の蛇紋岩もより大きく、滑り具合もより酷い。幸い、晴れていたのでそれほどでもなかったが、雨が降ったりしたらさぞかし、滑って歩きにくいだろうと思う。もくもくと高度を上げていくと、右側には太平洋が見えてくる。樹林限界を超えているのか、高い木がまったくないので、展望は素晴らしいものがある。そして、この山は高山植物が素晴らしい。高山植物の見頃は6月下旬から8月上旬らしく、この時期は週末はマイカーが入れない。我々は、このマイカー規制が終了した翌週ということで、ゴールデンウィークの次の週末のような感じで登山客は少なかったが、まだ高山植物はそこそこ咲いており、それは見事なものであった。一番の目玉はハヤチネウスユキソウというエーデルワイスの近似種であり、小さいながら可憐な花を愛でながらの登山は気持ちを明るくする。ここらへんの地区一帯は国の特別天然記念物に指定されているそうだが、確かに非常に特別な場所であることを感じる。これは、世界遺産クラスだなと思ったが、下手に世界遺産に指定されると逆に多くの観光客が訪れて、環境保護的には本末転倒の事態になるか、白神山地のようにまたぎも入れないほど管理をされて結局、訪問できなくなるかもしれないので、ここは現状のままでいいのかなと思ったりもする。
 ハヤチネウスユキソウ以外には、ナンブトウウチソウという赤紫色のねこじゃらしのような花が咲き乱れていた。蛇紋岩の登山道はなかなか傾斜は急であるが、一歩一歩丁寧に歩いて行く。八合目を過ぎると、特に急なところに出て、ここはなかなか長い梯子がかけられている。ただ、梯子で登るほど垂直ではなく、梯子を這って登るような感じだ。梯子に到着した時間は8時30分。ほぼ登山口からは2時間20分、ということでコースタイムよりはゆっくりである。梯子を登り切ると、また岩場が続く。ただ、もう尾根は目の前である。尾根に出た後は、お花畑の中を木道で歩いて行く。山頂に到着したのは9時。出発から2時間50分とゆっくりであったが、ゆっくり登ったおかげで太股も脹ら脛も攣りそうになることもなく、膝も痛くなっていない。
 山頂からは東には太平洋、北は八甲田山、西には鳥海山、そして南には薬師岳のその背後にある広大な北上山地を展望することができる。見事な絶景である。二週間前に訪れた至仏山からも360度の絶景を展望できたが、異なるのは早池峰山からの展望は人工物がほとんど見えないことだ。至仏山はダムなどが見れたりしたが、早池峰山からはそのようなものも見えない。僅かに駐車場や管理小屋が薬師岳との間の谷に見え隠れするぐらいだ。この北上山地の素晴らしい大自然に感動すると同時に、こんなところが本州にあったのかと驚きを覚える。大雪山よりも、さらに大自然の中に包まれている感じを受ける。これは見事な山である。ただ、今日のように晴天の日は珍しいということを山頂で一緒になった地元の登山者から聞く。昨日の岩手山、一昨日の八甲田山と天気に祟られたが、その二日間のマイナスを取り返せたほどの見事な登山日和に早池峰山に登ることができた。
 山頂ではお湯を沸かして、カップ麺を食べて、ゆっくりと下山する。山頂が平坦で、ゆっくりと座れるところもこの山の素晴らしいところである。これは岩木山や蓼科山のように山頂が岩でごつごつしているところに比べると遙かにいい。下山は蛇紋岩で滑りやすいこともありゆっくりと降りていく。梯子は登りより降りの方が難しい。しっかりと足場を確認しつつ、降りる。帰路は周りをじっくりと観察しながら歩いたのだが、蝉やバッタ、そして苔などがとても綺麗な色をしている。自然の美しさをつくづくと実感することができたが、このような経験はアメリカの国立公園などではしたことがあるが、日本の国立公園だと知床や立山でも経験したことがない。この早池峰山というのは、そういう意味でも、何か特別な場所であるような気がする。なんか生態系が非常に正しい、と実感させるような場所である。
 私は緊張していたせいか、便秘気味になっており、かつ発汗もしていたので尿意も催せず、携行トイレのお世話にならず、無事、12時ちょっと前に登山口に到着する。
 25年ぐらい前にサラリーマンをしていた時、登山好きの同僚の女性が早池峰山を登ったことを嬉しげに話してくれたことがある。当時、山にまったく関心がなかった私は、そういう山があるのかぐらいに思っていたのだが、今日、早池峰山に登り、いかにこの山が特別であるかを理解することができた。百名山登山を目指すという目標をたてなければ、おそらくこの山に登ることは一生なかったかと思う。早池峰山を登ったという貴重な経験をしただけでも、百名山登山を目指してよかったと思う。

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(小田越の駐車場から早池峰山を望む)

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(小田越の登山口)

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(登山の最初は森の中を歩いて行く。苔が美しい)

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(早池峰山の雄姿。貫禄と風格に溢れた素晴らしい山である)

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(登山道を振り返ると薬師岳が見られる)

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(エーデルワイスの近似種のハヤチネウスユキソウ)

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(猫じゃらしのようなナンブトウウチソウ)

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(太平洋の方を望む)

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(早池峰山は蛇紋岩の総大将のような山でもある)

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(太平洋側を望む)

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(サインでさえお洒落で洗練されている)

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(登山道から山頂の方向を望む)

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(長い梯子が我々を待ち構えていた)

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(山頂)

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(山頂から薬師岳を望む)

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(山頂から西を見る。左の方に雲の上から顔を出している岩手山を見ることができる)

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(山頂から東を望む)

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(小田越から山頂へ行くルートは途中、お花畑を通る)

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(蝉でさせ、厳かな気分にさせるほど美しい)

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(苔も美しい)
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