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宇沢弘文『ゆたかな国をつくる』 [書評]

 日本の戦後の混迷をもたらした最大の要因は官僚が公益をないがしろにして暴走したからだ、という著者の考えをまとめた本。そして、その結果、どのような悲惨な結果を日本にもたらしているのかということを、水俣病をはじめとした公害、荒廃する教育、絶望的な状況にある農業などの事例を紹介しつつ論じている。そして、この諸悪の根源である官僚専権をいかに克服して、真の意味でゆたかな、住みやすい、そして文化的水準の高い国をつくればいいのかを、断片的ではあるが述べている。
 20世紀の日本を代表する経済学者、宇沢弘文氏の本であることもあり、当然、論理的で(一部、事実誤認と思われる箇所がないわけではない)、すこぶる説得力はあるのだが、この本が出された1999年から20年近く経って、日本はより悲惨な状況になっている。現在の日本の状況をみたら、宇沢先生も憤死してしまうのではないか、と本書を読んで思ったりした。官僚専権という点からみても、財務省の佐川宣寿氏の公文書改ざん事件などは、宇沢先生の想像の外にあるのではないだろうか。当然、福島原発の事故なども彼からすれば卒倒するほどの出鱈目さ加減であろう。ということで、本書で書かれた状況から20年、日本はさらに泥沼状態に喘いでいて、そして、20年前に比べても状況を打破する光明さえ見えない。
 ということに気づき、暗澹たる気持ちになってしまった。


ゆたかな国をつくる―官僚専権を超えて

ゆたかな国をつくる―官僚専権を超えて

  • 作者: 宇沢 弘文
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1999/03/05
  • メディア: 単行本



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