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オリンピックと商業主義 [書評]

スポーツライター小川勝氏が、東京オリンピックが決まる前の2012年に出された新書。オリンピックがいかに商業主義に侵されていったのかが、資料から丁寧に分析されている。興味深かったのは、ロスアンジェルスの黒字化のポイントは商業主義を導入したのではなく、支出を抑制したからだ、と分析していることである。私もそうだが、一般的にモントリオールの大赤字を克服できたのは、ロスアンジェルスで商業主義の導入を許したから、商業主義の勝利だ、との印象を抱いていたのだが、むしろ超ケチケチの運営をしたからだ、ということを同書から学ぶことができた。ただ、一方で超ケチケチでやったこともあり、1984年のロスは何のレガシーも残っていないに等しい。
 また、商業主義の導入が極めてアメリカに有利なシステムで、それ以降のオリンピックを運営させることになったかということも本書を読むと分かる。IOCという怪しげな組織も、この本を読むとある程度見えてくる。
 同書はあとがきで、東京が夏季オリンピックに立候補していることを踏まえて、もし開始されたら「選手を第一に考え、なおかつ赤字を出さない」ことを提案している。ただ、2020年の東京オリンピックは、アメリカのテレビ局を意識して、8月に開催することが決定されている(1964年は10月に開催した)。新たな施設も、国立競技場を含めてつくり直しており、せっかくこのような本が開催決定以前に出されているにも関わらず、それが反映されていないのは残念というしかない。
 また、「オリンピックに期待すること」という国民へのアンケート調査が2012年6月に日本リサーチセンター調査が実施したが、トップは「経済効果が見込める」の73%であって、次点の「日本人選手の活躍を期待している」の40%を大きく引き離していた。
 しかし、本書を読んでも分かるように、多くのオリンピックは赤字であり、モントリオールのようにオリンピックで経済が失速して、衰退してしまった(ようやく最近、復活しつつあるがトロントにカナダ第一の座を譲って、その差はもう埋めようもなくなっている)都市があることが分かるように、オリンピックをやれば経済効果がでるというのはあまりにも早計であり、その楽観主義には驚くしかない。一部の経済学者も高らかに経済効果を謳っていたりするが、What have you been smoking? とそういう先生達には私は思わず、聞きたくなっている。

オリンピックと商業主義 (集英社新書)

オリンピックと商業主義 (集英社新書)

  • 作者: 小川 勝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/06/15
  • メディア: 新書





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