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はだしのゲンはピカドンを忘れない [書評]

 『はだしのゲン』が少年ジャンプに連載された時、私は小学校高学年であった。きら星のように楽しい漫画群の中で、唯一、この漫画は気味が悪く、また画筆もあまり好きではなく、なんか楽しい少年ジャンプにそぐわない漫画だな、と当時は思ったりしていた。
 さて、しかし、この漫画のおかげで私は原爆の悲惨さや戦争の不条理を知ることになった。そして、それは今となっては私の人格形成というか戦争への見方などにも資することになった貴重で有り難い作品であると思っている。著者の中沢氏は奇跡的に原爆から助かったが、もし彼がこの時、亡くなっていたら、私の世代の戦争への理解はずっと疎いものになってしまったであろう。
 2013年8月、島根県松江市の教育委員会がこの『はだしのゲン』を市内の全小中学校に対し、児童に貸し出さないよう閉架扱いにすることを要請し、それにより、市内の小中学校49校のうちゲンを全巻保有していた39校全てが閉架措置を取ったという事件があった。
 これはちょっと不味い動きではないか、と思い私は慌てて『はだしのゲンはピカドンを忘れない』を購入した。なぜなら、私も「ピカドンを忘れない」ようにしないと不味いと思ったのと、下手したら『はだしのゲン』も発禁になるような状況になるかもしれないと思ったりしたからである。そして、中沢氏のエッセイを改めて読み、原爆がどのような被害をもたらすのかを再確認した。北朝鮮に核戦争をほのめかすアメリカ人にも本当、読んでもらいたい。
 さて、それにしても広島県に隣接する島根県でのこの事件は興味深い。それは、他人への苦しみ、他人への情がないからこそ出来る非情な行動だと思う。原爆の被害者はほとんどが罪のない人々であった。その死に様はむごく、それを子供達に読ませるのは不適切であると考えることよりも、そのようなむごい死に様を二度と将来の子供達にさせないような社会を構築することを、将来の日本を背負う子供達に教えることが重要であると考えるべきであろう。そして、『はだしのゲン』よりも、その悲惨さ、その虚しさを伝えられる作品を私は寡聞にして知らない。

はだしのゲンはピカドンを忘れない (岩波ブックレット NO. 7)

はだしのゲンはピカドンを忘れない (岩波ブックレット NO. 7)

  • 作者: 中沢 啓治
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1982/07/23
  • メディア: 単行本



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