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クリチバの凋落 [クリチバ]

クリチバの調子がおかしい。もう10年以上おかしいと言っても過言ではない。私が『人間都市クリチバ』を出版したのは2004年であるから13年前である。その頃は、まだタニグチ市長の二期目が終わる頃で、徐々に綻びが見始めたがまだそれでも、レルネル市長の資産で食いつなげていたという印象である。さて、それから、しかし坂を転落するようにクリチバは特別な都市から普通のブラジルの都市へと転落していく。私の専門は、都市政策が成功する都市と失敗する都市の背景にある要因を研究することにあるので、クリチバが成功したその要因分析にも大変興味を持ったが、それが凋落したという要因分析にも非常に強い関心を持っている。クリチバの人からすれば迷惑かもしれないが、私としてはクリチバの凋落は凋落で、一粒で二度美味しい研究機会を提供してもらっているようで有り難い。
 さて、その凋落を象徴しているようなプロジェクトが、サステイナビリティ・ステーションという分別拠点である。これは、3年ぐらい前につくられたフルエテ前市長のプロジェクトである。その当時の環境局長のアイデアであったようだ。彼は「緑の党」出身であった。そこに国連が推薦した海外のコンサルタント・チームがクリチバに入り込んで、フルエテ前市長にこれをもっとしっかりとしたものにするべきであると提案したそうである。そして、あろうことか、このプロジェクトを実現させれば「ごみではないごみプログラム」を止めることができるとまで提案したそうだ。この提案書をみて新しく市長にあるグレカ氏と、新しい環境局長のセルジオ・トキオ氏はびっくり仰天をして、これを即座に止めたそうである。
 実際、これが具体化された拠点をグアヴィロトゥーバ(Guavirotuba)に視察に行った。これは、公園に設置された分別するゴミごとに色分けされた巨大なゴミ箱であったが、ゴミ箱の中を見ると、まったくゴミは捨てられていなかった。まあ、直前にゴミが回収されたという可能性が無いわけではないが、私に同行してくれた元環境局長の中村ひとしさんによれば、「こんな所にわざわざ分別ゴミを市民がもってくる訳がない」とつぶやいた。ジャイメ・レルネル元市長と一緒に「ごみ買いプログラム」や「緑との交換プログラム」、「ごみではないごみプログラム」を実践して、ごみをなくすだけでなくファベラの人々への社会福祉政策にまでもっていた中村氏からすれば、人のモラルを勝手に期待するような先進国モデルをクリチバの人達に強要して上手くいくと考えられる人々が信じられないようである。確かに、中村ひとし氏が手がけたごみ対策は、すべて人々がごみを回収するということを目的としたのではなく、それを回収することにインセンティブをもたらす仕掛けをいかにつくるか、ということに終始していた。このような点が、現在のクリチバ市の施策にはまったく欠如している。
 私は今、クリチバ市民を対象として400票という膨大な意識調査を科研費で実施している。その中で、70年代からのクリチバ市の好きな市長と嫌いな市長を尋ねているのだが、タニグチ市長後の3人が雁首揃えて「嫌いな市長」としてのワースト3を独占している。クリチバを駄目にした張本人達である。
 なぜ、このように駄目にしたのか。まだ、仮説の段階ではあるが、私はこう捉えている。
1) レルネル市長と同じことをしていると、自分に能力があると思われないので、違うことをやりたがる。
2) 何がクリチバに成功をもたらしたかを理解せずに、何かやれば成功するだろうと勝手に誤解をしている。
3) レルネル、グレカ、タニグチは叩き上げであったが、リッシャ、フルエトなど最近の市長は二世であり、親の七光りで政治家になっている。
4) レルネル、グレカ、タニグチは技術者であったが、それ以降は政治家であった。
5) 成功の要因を分析していないので、創造的であったクリチバの政策が、他の模倣をするような悲惨な状態になってしまっている。
 先週も国際コンサルタントが来て、何かいろいろと提案をしようとしたそうである。このプロジェクトをいれないとお金は来ないなどと脅しているそうだ。
「ここのことを知らないで平気にしている。どれだけのお金が無駄になっているか。これは、犯罪です」。中村氏は珍しく、強く非難をしていた。このチームの中には連邦の開発銀行の行員もいるそうだ。彼もこのプロジェクトをやらなければ、ブラジルの連邦予算が取れなくなるよ、と脅かすそうである。その背景には、世界的に著名なクリチバにコンサルタントをしたという実績が欲しいのであろう。JICAもそのような動きがみられる。
 このような混迷する状況下で唯一の救いは、クリチバの都市づくりをレルネルさんの下で取り組んだグレカ氏が市長に返り咲いたことである。私も前述したアンケート結果をグレカ市長にプレゼンする筈であった。これはドタキャンされてしまったが、しっかりとクリチバの栄光を取り戻してもらいたいものである。選挙運動のスローガンが「昔のクリチバを取り戻す」ということであるので、これは本当有言実行してもらいたい。

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(見た目はオシャレ)

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(右にいるのは元環境局長の中村ひとし氏)

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(ごみはまったく捨てられていないようだ)

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(ごみが捨てられなければ、どんなにオシャレでも意味はない)
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