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ル・コルビジェの建築は格好良くない [都市デザイン]

 「ル・コルビジェの建築作品」が、7月17日の世界遺産委員会によって世界文化遺産に登録されることが決定された。日本にも上野に氏が設計した国立西洋美術館があるので、これは東京都23区内で初めての世界文化遺産登録となった。
 地元やメディアは結構、騒いでいるが、私はどちらかというと登録までの運動が始まって15年もかかったことや、2度も落選していることの方が気になっている。デッサウやヴァイマールのバウハウス建築群や、リートフェルトのシュレーダー邸、ミース・ファン・デル・ローエのトゥーゲントハット邸、ブルーノ・タウト等のベルリンのモダニズム集合住宅群、ベルギーのストックレー邸といった近代建築がすんなりと決まったことを考えると、何かル・コルビジェには欠けたものがあるのではないか、と邪推したりしている。もちろん、ル・コルビジェというシステムとして国を越えた世界遺産登録を目指したためにハードルを高くしたということはあるかもしれないが、サヴォア邸単体では難しかったためにシステムとして目指したのではないか、と穿った見方をしている自分がいる。
 日本ではル・コルビジェは神的な位置づけをされているが、私は世界水準では、近代建築を広めた功績は疑う余地もないが、それほど建築家として評価されていないのではないだろうかという極めて不遜な仮説を有しているのだ。それは、日本では建築的なことを一切、勉強せずに90年代にアメリカの大学院で学んだということの影響が大きいかもしれない。アメリカ、というかクリストファー・アレキサンダーのいたバークレイ校では、ル・コルビジェはほとんど過去の人であった。もちろん、その過去の功績は評価されてはいたが。
 さて、しかし、私がル・コルビジェで最も気になるのは、彼のつくる建築が格好良くない、ということである(ああ、書いちゃった)。まあ、こういうことを書くと、あちらこちらから総攻撃、総批判を受けそうであるが、これはボブ・ディランの曲はあまり好きでない、とかカレーうどんはあまり好きでない、というのと同じような極めて感性的なものである。ただ、素直に小脳感覚で格好いいと思えないのだ。
 国立西洋美術館とかは最たるもので、むしろ目の前にある弟子の前川圀男の東京文化会館の方が格好いいと思える。ロンシャン教会もさすがに中に入ると、その光のデザインは素場らしいと感心するが、外観は醜悪なカタツムリのように見える。シュツットガルトのヴァイセンホーフ・ジードルングでも、印象に残るのはJ.J.Pオードとミース・ファン・デル・ローエの集合住宅であり、コルビジェのものではない。
 近代建築の巨匠と比べても、ミース・ファン・デル・ローエの作品群が圧倒的に批判の余地をもたらさない完璧性を備えていることや、フランク・ロイド・ライトのユークリッド幾何学と芸術との融合といった存在感のようなものを有していることに比べると、なんか今ひとつだな、という勝手な素人の感想を抱いているのである。
 素場らしい建築と出会うと、崇高な音楽が流れているような凛とした空気を纏っていると感じることがある。ガウディやドミニク、オットー・ワグナー、I.M.ペイ、ルイス・カーン、ザハ・ハディドなどの建築がまさにそうである。それは、人の内なる詩情をかき立てるような、建築空間が個人の感性を喚起させるような効果である。それは、優れた音楽を聴いていても、美味しい料理を食べても感じるようなインピータスである。そして、ル・コルビジェの建築では、そのような揺さぶられるような感動を個人的にはほとんど受けたことがない。まあ、強いていえばロンシャンの内側に入った時かな。この時は、フランス人の観光客が撮影禁止であるにも関わらず、フラッシュをばんばん炊いて写真を撮っていたのに怒ったことがあることを覚えている。フラッシュでこの光の空間を台無しにするなよな、というのと、フラッシュ焚いたらこの光の美しさが、写真に収められないじゃないかアホ、という怒りを覚えていたからだ(私は規則を守って内部の写真は撮っていないので、その素晴らしさは写真で示せない)。
 とはいえ、このように感じるのは私だけなのだろうか。まあ、ただに主観的な好き嫌いのレベルであるとは思うのだが、私は他の人の多くも大脳でル・コルビジェの建築を好きだと言っているような気がしてならない。それは、英語が聞き取れないのにボブ・ディランの歌が素場らしいと言っているのや、ミシュランの三ツ星の料理の味がよく分からないのに美味しいと言っているようなのと同レベルかもしれないなあ、と思っている自分がいる。つまり、本当はそんなに格好いいと思っていないのに、ル・コルビジェだから格好いい、ととりあえず言っているような、そういう印象である。私の感性は、ル・コルビジェの建築を格好悪いと言わせている。まあ、そういうことを言うと、何も分かっていない、とか素人が偉そうに言うな、とか言われそうなので、あまり言わないのだが、また、世界遺産登録でル・コルビジェの無批判的な絶賛があちらこちらで起きそうなので、とりあえず水を掛けてみる。焼け石に水ですが。

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(ロンシャンの教会で記帳している人の半数が日本人という異常)

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(ヴィッセンドルフ・ジードルングでのコルビジェの作品)

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(同じヴィッセンドルフ・ジードルングでも個人的には、J.J.Pオードの住宅の方が好みである。この写真は今ひとつですが)
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