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『自由が丘スイーツ物語』 [書評]

この本は単なる自由が丘のスイーツ本ではない。それは、スイーツをテーマとした消費文化論であり、またスイーツをめぐるマチ論でもある。自由が丘というマチになぜ、スイーツ店が集まり、ユニークで個性的な魅力あるスイーツ店がつくられたのか。その要因分析をしているのだが、それはチェーン店ではなく、個店であるから。また、大企業ではなく地元の商店街がしっかりと拘った街づくりを展開してきているからだ、と言及している。自由が丘はお洒落だが、浮ついた腰の座っていないミーハーなマチというイメージがあるが、実態は企業ではなく地元の人達が、自主独立精神とチャレンジ精神で、本気で商いを展開してきたマチである。だから魅力があるのだが、本書は、その本質を見事に掴んでいる。自由が丘に住んで、都市を対象とした研究をしているものとしては、「この著者、相当、切れ者である」という印象をこの著書からは受けた。文献もしっかり押さえているし、相当数の取材もこなしている。消費文化論に関しても、ちゃんと流れを把握しており、その流れの中でいかにして日本人が洋菓子を受け入れてきたのかを分析し、整理している。しかし、それを重くせずに、スポンジケーキのようにフワッと論じているので読みやすい。口当たりはフワッとしているが中身は濃厚。まさに、この本で書かれているモンサンクレールのセラヴィのような味わいの本である。

ただ、素場らしい内容ではあるのだが、著者がこの本でお勧めとして紹介した3店のうち2店はもう閉店になっていた。出版してから5年で、著者の眼力に適ったお店が2店も潰れてしまうというのは、この街の厳しさを示唆していると思われる。


自由が丘スイーツ物語―ケーキで人を幸せにする街

自由が丘スイーツ物語―ケーキで人を幸せにする街

  • 作者: 阿古 真理
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2011/10/12
  • メディア: 単行本



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