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武雄図書館を訪れ、公共性について考えさせられる [地域興し]

 武雄図書館を訪れる。2000年に佐藤総合計画が設計し竣工した図書館と歴史資料館を改修し、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブが指定管理者として参入し,2013年4月から運営を行っている。その時、開架書庫閲覧室の増床、2階バルコニーの新設などの改修を行っている。カルチュア・コンビニエンス・クラブが指定管理者となった後、蔵書の入れ替えに伴う貴重な歴史資料等の廃棄・除籍、および選書に対しての批判が高まっていた。私も、おそらく武雄図書館に訪れたら否定的な意見を持つであろうと思いつつ、武雄図書館に向かった。武雄図書館は武雄温泉駅から歩いて15分ほどの場所にある。目の前は夢タウンで、つくづく地方中小都市の中心は鉄道駅ではなく、ショッピング・センターであることを改めて思い知らされる。それなのに、コンパクト・シティを推し進めようとしている中央政府は、鉄道駅を都市の中心に位置づけようとしているのだ。愚かにも。閑話休題。
 さて、武雄図書館の第一印象は、なかなか趣のある素場らしい公共建築だな、ということである。佐藤総合計画は九州の建築設計事務所であるが、地元でこのような建築作品が多く生み出されるのは素場らしいことであるな、と感心する。また、武雄図書館はTSUTAYAの指定管理事務所が決まった後、つくられたのかと思っていたのだが、そういう訳では決して無く、既存の施設を改修しただけということを知った。ハコモノ行政ではなかったのである。
 実際、訪れた印象は、街中にある、規模の大きいお洒落な本屋である。私が奉職する大学の図書館なんかとは蔵書がまったく違う。基本、お洒落系の雑誌等が主体である。青山ブックセンターのような感じである。スタバも入ったりして、こんなお洒落空間が図書館であっていいのか、民業圧迫なんじゃないか、と東京であれば思ったりするが、ここ武雄市は圧迫する民業もないかであろう。お洒落な居心地のいい空間を公共がつくることは別に悪いことではないだろう。また、確かに貴重な歴史資料等が廃棄されたことは大変な問題ではあるが、それはむしろ佐賀大学などの公共の大学に収納していた方が使い勝手はいいかもしれない。市民の図書館として、この武雄図書館は遙かに市民のニーズに合致しているかもしれない。しかも、武雄市のような5万人程度のマーケットしかない都市では、民間はこのようなニーズに対応しない。そこで公共が、それを補うというのは悪くないかもしれない。
 公立図書館の多くは、官営図書館になってしまっている。したがって、公共サービスといった意識は、皆無であるし、仮に職員が持ったりすると、組織から弾劾される。結果、誰も利用しないような公立図書館だらけになってしまう。そのような状況に風穴を開けた、という点ではこの武雄図書館は結構、興味深い事例であるし、この武雄というまったくもって魅力が感じられない中途半端な都市には、一服の清涼剤のような場所となっている。私が高校生で武雄に住んでいたら、この図書館によって救われたかもしれない。そういう場所を、民間がつくれなければ公共がつくるという発想はそれほど間違っていないように思うし、私は訪れる前より遙かにポジティブな気分でこれを評価したいと考えた。そもそも、公共図書館がしっかりとしていれば、カルチュア・コンビニエンス・クラブが指定管理者になるような事態も起きなかった筈である。日経新聞は「本が泣いている」と批判したようだが、そもそも、利用率が市民の2割以下の図書館に置かれている本こそ「泣いている」と私は考えるようになった。実際、現地に行くと、大きく考え方が変わるということを実感した武雄図書館の視察であった。
 
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