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『中央線がなかったら』 [書評]

 中央線がなかったら東京西部はどのように再認識されるであろうか。なかなか、興味深い着想によって本書はまとめられている。中央線はあまりにも真っ直ぐであり、あまりにも東京西部の都市構造を認知するうえでも影響が大きいので、それなくして東京西部はイメージしにくくなっているが、その先入観を取り払われたら、何が出てくるのであろうか、という問題提起は面白い。ということでわくわくして本書を読み始めた。
 本書は1部と2部とから成る。東中野周辺、中野や阿佐ヶ谷を論じた1部と、府中と日野を論じた2部である。1部は3章、2部は2章とから構成される。ちなみに本書の著者として名前があがっている三浦展も陣内秀信も、単著で書いた章はなく、おもにフリーライターと陣内さんのお弟子さん達が書いている。それでも、1部は三浦、陣内も執筆者として名前を挙げているだけあって興味深い内容だ。確かに中央線が出来る前の東京西部の空間構成は、我々が現在、抱いている空間イメージとは違うのだな、ということが分かって面白い。しかし、2部の府中と日野の章は興味深くない訳ではないが、中央線との関係性が薄い。特に、府中はそもそも中央線とは関係がそれほどないと思われる。さらに、日野は中央線の真っ直ぐの一直線が折れ曲がっており、新宿—立川間のような空間支配力は薄れている。
 私はむしろ、吉祥寺や三鷹や武蔵境、さらには立川のこと(立川は中央線ができてから、その重要性が増したと思うのだが、それ以前はどうであったかを知りたかった。特に万願寺など歴史的にもそれなりに重要な役割を果たした寺が、なぜあのようなところにあるのか、高幡不動の位置づけなども知りたかった)をむしろ書いてもらった方が、本書のテーマとは合致していたと思われる。ということで、コンセプトは非常に興味深かったのだが、若干、肩すかしの印象を持った。読んで損とまでは思わないが、結局、一番面白かったのがプロローグの陣内氏と三浦氏との対談というのは、やはり今ひとつの誹りは免れないかもしれない。値段を高くしても、頁を増やして、上記の点も網羅してもらった方が読者としては有り難かった。

中央線がなかったら 見えてくる東京の古層

中央線がなかったら 見えてくる東京の古層

  • 作者: 陣内 秀信
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2012/12/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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