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北海道の今の地域の衰退をもたらしたのは鉄道を廃線にしたことじゃないだろうか [サステイナブルな問題]

 北海道の衰退の激しさを前回、書いたが、このような状況をもたらした一つの要因は鉄道を廃線にしたことなのではないかと思われる。鉄道は、駅というノードが核となって、町を構成することになる。特に北海道のように、歴史の浅い町であればあるからこそ、鉄道駅が町の骨格をつくるうえで重要な役割を担ってきたであろう。足寄の町などはまさにそうである。
 また、鉄道は回廊を形成するので、地域の背骨のような軸をつくることに貢献する。いわゆるちょっとした地域軸である。このような地域軸ができることで、通学圏や通勤圏、商圏なども形成することができる。都市が広域化するほど大きくならなくても、この軸があれば、広域圏のような役割を果たすことができる。
 鉄道を廃止して、自動車でそれを代替しようとするのは一見、合理的にみえるかもしれないが実態はそうではない。ということが北海道の衰退の現状をみるとよく分かる。鉄道があれば、駅さえいけば日本中と繋がる。幼稚園児でも高齢者でもお金さえあれば、鉄道に乗れば、鉄道が連れて行ってくれる。独り者の高齢者でも大丈夫だ。一方で自動車はどうであろう。高校生以下は乗れない。高齢者も自分を危険に晒すだけでなく、他人をも晒すことになるのでなかなか乗るのは不安であろう。というか、その前に普通の大人でも運転免許証を取らなくてはならないし、何しろ極めて高額な自動車を購入しなくてはならない。自動車社会というものは随分とお金がかかるものなのである。鉄道があれば、どこかとは繋がっているという安心感を持てる。それが例え1日に1本しか列車が走らないような状況であっても、ないよりはあった方が遙かにいい。鉄道がなくなった地方で、年を取ることの不安は尋常ではないであろう。私の叔母は広島の郊外住宅地にある戸建ての家に住んでいたのだが、70歳を過ぎた頃、自動車でないと用が足せない生活環境に不安を抱き、引っ越せるうちにと広島の鉄道の便利がいい駅そばのマンションに引っ越してきた。広島でさえそうなのである。北海道とかで車依存の生活を年老いてもしなくてはならない不安は尋常ではないであろう。
 そもそも自動車を走らせるためには道路を整備・管理しなくてはらならない。日本は既にアメリカと同額の道路維持管理費を税金で支払っている。道路に金をかけすぎなのである。しかし、その道路を一生懸命整備して、その結果、鉄道はいらないね、と廃線にしたその結果が、驚くほどの人口流出と地域の衰退である。別に道路と鉄道と両方を交通インフラとして整備しておけばいいだけの話だったのである。道路のための高額のトンネルを整備するのであれば、ちょっと遠回りの峠越えをさせて、その浮いたお金で鉄道の運営費に回しておけばよかったのである。そもそもすべての道路事業は赤字である。道路は決して社会的には無料ではないのである。
 足寄は鉄道が走らなくなった駅舎を残しているが、それは足寄の唯一の町らしいランドマークとなっている。その本来の役割を失い、ただのランドマークとなってしまった駅舎には、私は大きな寂寥感を覚えるのである。鉄道がなくなった足寄の町は地理的アイデンティティを喪失し、根無し草のように荒漠なる北海道の大地を彷徨い、その拠り所を探しているようにも思える。そのような町で生活していくのはさぞかし不安であろう。そして、そのような町や村は鉄道の廃線と同時に、北海道に大量に生み出され、徐々に町と村自体をも喪失させていくのではないだろうか。

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(旧足寄駅)

 阿寒湖のそばにある雄別炭鉱にも足を伸ばしてみた。1896年に石炭の採掘を開始し、1923年に雄別炭礦鉄道が開業してから人口は増加。1950年代には雄別と隣の布伏内と合わせた人口は1万2000人ほどあり、これは当時の阿寒町人口の6割を超えた。しかし、その後、炭鉱は閉山し、企業城下町となっていた集落群は無人地帯となり、現在の雄別の人口は0人、布伏内でも500人しかいない 。

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(雄別炭鉱)

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(雄別炭鉱)

 現在の雄別炭鉱はジャングルのような森の中に、昔の炭鉱跡がぽつぽつと散見されるような状況である。まるで「ラピュタ」のような世界である。ここに旧阿寒町人口の6割も住んでいたとは想像もできない。ただし、北海道を車で走っていると、ゴーストタウンになる一歩手前のような集落を多くみかける。雄別炭鉱などの産業構造の転換によって地域経済がほぼなくなってしまったところは致し方ない側面もあるかもしれない。しかし、そこに人が住むことで生じる産業もある。都市が発展するきっかけとなった産業が衰退しても、他の産業にうまくシフトすることができた事例も少なくない。ただし、それはしっかりとした交通ネットワークを有していることが必要条件であろう。そして、その交通ネットワークとは鉄道であると思われるのである。
 留萌線が廃線されるという噂も聞く。留萌という町を残したいのであれば、これは極めて誤った判断である。足寄の町をみれば、それは一目瞭然であると私は思う。
 
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