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椎名林檎の最新作『日出処』は、彼女に感謝の言葉を述べたくなるようなアルバムだ [ロック音楽]

 椎名林檎の最新作『日出処』。5年半ぶりのオリジナルアルバムだ。東京事変で活動しているので、そんな久し振り感はない。私は絶望的な椎名林檎のファンなので、ファンがどうこう批評しても、それほど参考にはならないであろう。ということで、まあ割り引いて読んでもらえればと思う。
 全部で13曲。一曲目の「静かなる逆襲」はなんと18歳の時につくった曲。「歌舞伎町の女王」と同じ時だそうだ。こんな曲を今まで放って置いたという余裕に恐れおののく。二曲目は「自由へ道連れ」。これは最近、東京事変を解散した後につくった曲。東京事変の延長線上にあるような感じもするが、ベースやギターの演奏がまったく違う。そういう毛色の違いは面白いが、東京事変での演奏を聴いてみたい気もする。そして「走れわナンバー」は、ウエスト・コースト風のAOR的アレンジがされた曲で、さびに入るまでは日本語で歌われなければアメリカ人が演奏をしているような印象を受ける曲。「赤道を越えたら」はジャジーな曲。「JL005便で」はリズムマシンがリズムを刻み、「尖った手口」などをちょっと彷彿させるが、この曲の方が洗練度は高まっている。JL005便といえば、ニューヨーク行きだ。マンハッタンの夜明けを飛行機から望んでいるような風景が目に浮かぶ。「ちちんぷいぷい」は椎名林檎らしい忙しい感じの楽しい曲。「今」は、ストリングスのピチカートをバックに歌いあげるジャズ・アレンジの曲。全般的に椎名林檎らしく、どこかで聴いたことのあるような気がするのだが、チェックしてもそのような曲は見つからない。椎名林檎節というか、椎名林檎は彼女自身の音世界を既につくってしまったのかもしれない。凄まじいオリジナリティであることを改めて認識する。これは、日本のケイト・ブッシュだな。
 そして、音世界だけでなく、椎名林檎の文学の頂点を極めたのではと思わせるのが「ありきたりな女」である。この詞は凄い。私は母にはなれないが、母になるというか、娘を産むということは、彼女のような感性にこのような詞をつくらせるのか、という事実に感動を覚える。というか、この曲、泣けるわ。
 他の5曲は既にシングルで発表されているので、改めてここで感想を書くのも気が引ける。シングルでの印象が強いため、このCDで通して聴いてもそれほどトータリティを感じられない。ベスト盤のような感じで聴いてしまう自分がいる。あと、個人的には大変好きな「孤独のあかつき」が英語で歌われているのだが、私は日本語の方がはるかに好きである。これは、残念である。曲のクオリティは前作の「三文ゴシップ」を越えており、また、人として音楽家として成熟した椎名林檎の等身大の輪郭が見えてくるようなアルバムである。若者にとってはどうか分からないが、私のような年齢のものにとっては、とても心に染みこむ作品群である。椎名林檎に感謝の言葉を述べたくなるようなアルバムだ。


日出処

日出処

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ユニバーサルミュージック
  • 発売日: 2014/11/05
  • メディア: CD



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