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『千と千尋の神隠し』の舞台のモデルとなった九份という街を訪れる [地球探訪記]

 学生達と台湾に来ている。これは、私が学生達とプロデュースしているパフォーマンス・ユニット『ユルドルSKM(商店街勝手に盛り上げ隊)』のパフォーマンスを台湾で披露することが主な目的だったのだが、3日間ほどそれをした後、オフ日が一日あったので、学生達が九份に行きたいというので行くことにした。
 私は結構、宮崎駿のファンであると自負していたのだが、恥ずかしいことに、『千と千尋の神隠し』の舞台のモデルが実在することを知らなかった。あの街は、天才による想像の産物だと思っていたので、それが存在していること、しかも台湾にあることというのはちょっと驚きであった。さらに、多くの学生がその事実を知っていた。どうも、テレビ番組で紹介されたことがあるらしい。私はテレビを観ないのだが、それを言い訳にするのも恥ずかしいぐらい知っておくべきことであった。宮崎駿のファンであると自負していたことが恥ずかしい。
 とはいえ、私がそれを想像の産物だと思ったことは必ずしも不自然ではないであろう。というのは、『千と千尋の神隠し』の油屋の舞台はランドスケープ的には異常だ。千が長大な階段を駆け落ちるシーンがあるが、あんな場所がこの世に存在するとはちょっと思いにくい。日本は世界的にみても、相当、急峻な地形が多いが、その日本でもあのような風景はないであろう。リオデジャネイロはちょっとそうかなとも思わせるが、それでも標高的には足りないような気がするし、グラナイトの岩壁と『千と千尋の神隠し』のいかにも湿度の高い亜熱帯な山とは雰囲気が違う。
 まあ、しかし、そのような場所があるのならば行くしかあるまい。台北からも近いという。拒む理由は何もないということで向かう。九份には、台北からはバスで行く。忠孝復興という太平洋そごうのある駅から、ローカル・バスに乗って行くのだ。忠孝復興の駅を降りると、日本人の観光客を狙った白タクの人達が多くいて声をかけてくる。我々はそれを拒み、しかし、バス乗り場を尋ねるとここだと教えてくれた。しかし、15分に1本は来るというバスが15分経っても来ない。なんなんだ、と思っているとバス停の前にあるセブンイレブンのおじさんが、そこで待っていても九份行きのバスは来ないよと教えてくれる。我々は、この3日間、素晴らしい人柄の台湾人ばかりと接していたので、日本人としてのコンプレックスさえ覚えてしまったくらいなので、台湾人にも悪い人がいることでちょっと安心する。とはいえ、随分と酷い奴らだ。
 バス停を移動すると、すぐバスは来た。滅茶苦茶、ぼろいバスで、バスは揺れまくる。スピードを落とせばいいのだろうが、がんがん飛ばす。バスはトンネルを越えると、随分とワインディングが激しい山道を登っていく。凄い勾配だ。海が美しい。リアス式海岸の美しい海だが、その海にこんなに急峻な山があるところは、日本でも珍しいのではないかと思う。房総半島よりも急で、熱海や箱根のような急峻さである。60分ちょっとでバスは九份に着く。
 そして、そこはまさに『千と千尋の神隠し』の舞台のような街であった。ほとんど45度のような階段がまっすぐと伸びていく。その周りには怪しげな屋台が建ち並ぶ。そして、油屋も実在した。『阿妹茶楼』という名のお茶屋さんだ。あの、映画でもお馴染みの怪しげなお面も飾られている。急坂の途中に立つこの茶楼、相当の存在感である。中に入ろうとしたが、お茶を注文しなくてはならず、よく考えたら、外からこの茶楼を見ることの方がずっといいことに気づき、入るのをやめる。
 こんな急坂のところに集落ができたのは、ここで金が採れたからだそうだ。そういえば、『千と千尋の神隠し』でも千が砂金を採らされる場面があった。いわゆるゴールド・タウンだったのだ。それで街が出来ていく。日本統治時代のことだ。しかし、第二次世界大戦後、金は採れなくなり、町は急速に寂れていくのだが、1989年に映画のロケ地に使われ、この町の風景が若者を中心に人気となり、多くの観光客が訪れるようになったそうだ。時代の変化から取り残された街並みが残ったことで、その街並みが観光地になったということらしい。これは、日本でも豊後高田の「昭和の町」とかとも相通じるし、日本の他の縮小都市も参考にできる事例なのではないだろうか。そして、さらに2001年の『千と千尋の神隠し』で、日本でも有名になったということだろうか。ちなみに宮崎駿サイドは、それを公式に否定しているのだが、例えば、映画の出だしで千尋の親が食べる食事なども、九份の屋台で出ているものとそっくりであったりする。まったく関係なく、ここまでそっくりというのはあまりにも不自然であるし、否定したことはちょっと残念である。
 この九份という街自体は、ほとんどドンキホーテとヒンズー教のお寺を混在させたような、ごちゃごちゃ加減なのだが、そのごちゃごちゃさが、一つのコンテクストを創り上げていくような調和を感じることができる。まさに、『千と千尋の神隠し』のような、混迷の中に統一感を覚えるような街並みである。
 九份は多くの日本人観光客もいたが、現地人と覚しき人も多くいた。相当、人気のある観光地のようだ。どことなく琴平の「こんぴらさん」への参道を彷彿させるが、琴平と違うのは最終目的地がないことだ。なんか、この急坂に発展した街並み自体が観光資源のようだ。
 九份には食事処が非常に多く、我々もいろいろと食事をした。その中でも、この地で有名といわれる芋圓は印象に残った。これは、かき氷にコンニャクのような白玉のような芋団子と小豆が入ったものなのだが、なかなか美味しかった。お勧めである。
 現在、九份は台湾の観光地の中でも目玉的位置づけを有しているようだ。私の友人の台湾人は、あそこは観光地然としているのでお勧めではないと言ったが、いやいやどうして、観光地然としている事実は否定しないが、それでも訪れる価値のある素晴らしいところだと思う。来てよかった。
 さて、ということで非常に充実した九份巡りが出来たのだが、台北に帰るのは苦労した。まず、九份のバス停は二つあるのだが、上のバス停でほぼ満席になるので下のバス停で待っていても、なかなかバスに乗れない。というか、しばらく乗れない。特に台北直行には乗れないので、身近の鉄道的に行くバスに乗って、そこから台北に向かわなくてはならない。上のバス停で待つことが肝要である。

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(九份の夕暮れ時のランドスケープ)

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(油屋のモデルとなった阿妹茶楼)

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(提灯がいい感じの雰囲気を醸し出している)

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(味わいのある坂道)

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(屋台で展示されている不気味なお面)

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(九份名物の芋団子)

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(急峻な斜面に家々が建ち並んでいる)

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(千と千尋の神隠しで、千尋の親が豚になる前に食べていたものと酷似している饅頭のようなもの)

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(九份の街並み)

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(九份の街並み)
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