SSブログ

猿払村の事例は、人口減少に悩む多くの自治体に知恵と勇気をもたらしてくれる [地域興し]

 猿払村に来ている。稚内市の東隣にある日本最北の村の一つである。
 最近、人口縮小が話題になっている。日本創成会議がふざけたとしかいいようのない「消滅自治体」の発表をしたのが先月頭である。豊島区のように、ほうっておけばいいのに慌てて対策を始めるなど、なんか、この縮小現象に対する世間の狼狽に、私はとても冷ややかな目でみているのである。なぜなら上智大学の鬼頭教授が指摘しているように、現在の人口縮小は、まさに1970年代に政府主導で出生率を下げるように努力してきた成果が実ったからであり、そもそも予期されたことである。というか、政策がうまくいってよかったと喜ぶべきなのに慌てふためいて困惑している。これは、長期的観点からすれば馬鹿でしょう。
 しかし、冷ややかな目でみているのも無責任だろう、ということで自治体の簡単なデータ分析をしてみた。人口縮小が日本にインパクトを与える点は、1)規模としての人口縮小、2)人口縮小のスピード、3)地域間格差の拡大、の3つが主に考えられる。世間が慌てているのは1)だが、これは前述したように、政策主導の成果であり、慌てることはない。というか、年金問題、規模としての経済縮小という問題はあるが、これはそれほど本質的な問題ではない。鬼頭教授は、「人口減少は現代文明の成熟が原因である」(『2100年、人口3分の1の日本』)と指摘しており、ある意味で必然的な結果ともいえる。現在の急速な人口減少は、政府主導であったかもしれないが、そもそも人口減少は世界的に先進国でみられる結果であり、イギリスやフランスが多少、減りに鈍りをみせているのは移民を大勢、受け入れているからである。ということで、これは対策を立てること自体、あまり賢明ではないし、一所懸命、出生率を上げようと声高に叫ぶ人達は近眼すぎる。2)は若干、問題だとは思う。これは、70年代の人口増加抑止策が効き過ぎた結果ではあるのだが、この変化の速さに対応するのは難しい面がある。とはいっても、策はある。生産年齢人口(特に若い)の移民を増やすことだ。まあ、その是非はここで検討しないし、私もそれほど関心を持っていない。私が関心を持っているのは3)である。現在の人口縮減は、自然減が大きな要因となっているが、地方にとっての人口縮小は社会減が大きな問題であった。この社会減をいかに抑えるのかは、地方が維持可能な経済社会を確立するうえでの大問題である。現在の日本政府は、ひたすら東京というもっとも持っている都市をさらに豊かにさせようと投資している。オリンピックの東京開催は、国家的にも東京的にも、惨憺たる大失敗であるということが今の時点で明らかだが、さらに下手すればカジノまでも東京につくろうという計画がある。私はカジノこそ、苫小牧のような打つ手がない地方の最後の救済策になるのではないかと思っているのだが、なぜ東京?アメリカのようなそれほど賢くない国でもラスベガスはネバダという何もないところにつくる。ニューヨークやサンフランシスコやシカゴにはつくらないでしょう。それは国家がバランスよく発展することが、国力を増強させるためには必要だからである。サッカーだって本田だけに、特別メニューや特別トレーニングなど特別待遇をさせてもチームは強くならないでしょう。今の日本政府は、そういう馬鹿なことを地方政策においてしていると思われるのだ。そんなことをしているので、地方には希望が持てずに、大量の若者が高校を卒業すると、東京に出てきて、また地方の大学を出ても就職するために東京に出てくるのだ。
 この地方から東京に出てくるという数字自体は、実は減少傾向にある。これは喜ばしいことでも何でもなく、ただ地方に送り出す若者がいなくなっていることに過ぎない。
 このように人口縮小がもたらす地域格差の拡大に関しては、私は関心を持っている。どのように、人口縮小のダメージを緩和できるか。都市デザイン的に何かできるのか、ということを研究テーマにしているのだ。
 ということで、自治体をいろいろと統計数字で整理していると、面白い自治体がみつかった。それが、今回訪れた猿払村なのである。猿払村は高齢化比率が22.4%と全道で4番目に低い。札幌市よりも低いのだ。人口ピラミッドをみても全国に比べて、高齢者が低いだけでなく、子供達も多い。この村には何かユニークなところがあるのではないか。ということで、村を訪れて村長さんともお話をすることにした。
 さて、実際、訪れたことで分かったことは、この猿払村、驚くほど金持ちであるということだ。猿払村の主産業はホタテである。ホタテの漁獲高は日本一である。ここのホタテは養殖ではなく、天然ものであり、さらに5年間育てているので、他産地と比べてずっと美味しい。最近では、中国や欧州へも高級ホタテとして輸出されている。ホタテ漁師というか、漁協の組合員は300人ほどいるが、これら組合員の年収は多い人だと4000万円ぐらいあるそうだ。
 猿払村には高校がない。したがって中学を卒業すると、稚内高校か浜頓別高校に通う。バス通学だが、稚内高校だと下宿する学生もいるそうだ。なかには、もう高校から札幌や旭川までも行ってしまう。これは、漁師は札幌や旭川にマンションを持っているから、そこに息子を住まわせて通わせられるからだ。しかし、多くの子供達が高校を卒業すると、猿払村に戻ってくる。その実態は、人口ピラミッドをみても明らかだ。
 村長さんは、なんでこんなに若者が戻ってくるように豊かなのですか?と尋ねると「一次産業がしっかりしている」からとの回答。これは、私の仮説とも一致。私は以前だが、『エコノミスト』に書いた原稿で、人口が減少しない人口5000人以下の自治体は「一次産業がしっかりとしている」という特徴があることを指摘したが、この猿払村もまさにその通りであった。一次産業は、その地域風土に則っている。ということで、他が模倣したくても模倣できない。それに、その地域に合ったものを通常、つくるし、そのような商品を開発する。あの人口縮小都市の代名詞でもある夕張市であっても、夕張メロン農家はしっかりと稼いで生活できているのだ。原発や炭鉱、工場など、その地域性と関係性のない、というか土地と関係のない産業に依存しているところ、まだ産業に多様性がなく、それらの産業への依存度が高いところほど、人口縮小は甚だしい。原発に関しては事故が起きる以前(すなわち2010年の国勢調査)のデータでの分析でも北海道泊村などの人口減少が甚だしいのは皮肉としか捉えられない。結局、地道にしっかりとしたその土地に合った産業を育てていくことが重要であることを、猿払村の成功は示唆しているのではないだろうか。
 この猿払村。しかし、その昔は主力産業すらないところで、ひたすらオホーツク海のものを取って売っていたが、ニシンが捕れなくなり、またホタテも捕れなくなり、貧乏をみたければ猿払村に行けとさえ、言われたのが、そこから一念発起。村の予算の半分を、ホタテを育てる(養殖ではない)ことに研究することに使い、猿払村村民の苦労と英知によって、ホタテを育てることに成功したのである。そして、現在では若い世代が漁業と、そして酪農に夢と希望を持って後継してくれる状況になっている。
 いい話である。ただし、猿払村の今後の展望はそれほど明るくはないとの印象を持った。というのは、漁協組合に入ることが極めて難しく、1世帯あたり一人しか引き継げないなどのギルド的なルールをつくったりしていることだ。競争の原理があまり働かず、既得権を守ることを考え始めた組織は、そのうち衰退していく。また、地元の道の駅で出される食事が、全然、美味しくない。輸出で食べていけるので、日本のマーケットを拡大しようとするような気概もないようだ。逆にいえば、その程度の組織であっても、しっかりと一次産業の競争力などを活用すれば、しっかりと地域は守れるということだ。猿払村は政府の機関など一切ない(自衛隊の演習場はある)ということも自立意識を高めたことに寄与したのかもしれない。どちらにしろ、猿払村の存在は、人口減少に悩む多くの自治体に知恵と勇気をもたらしてくれるのではないだろうか。

nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0