『しとやかな獣』 [映画批評]
1962年に公開された若尾文子主演の作品。団地の部屋を舞台に、一家総出で詐欺をする家族と、その家族の被害者になった人達との関わりを描いた物語だが、この家族の長男を逆手にとった若尾文子演じる後家の主人公の存在感が凄い。彼女の秀逸なる台詞回しには、騙された方が悪いと妙に納得させられる。高度経済成長期に差し掛かった日本人の、金がすべて的な側面を揶揄した作品としても捉えられるであろう。能楽を応用した演出も劇的で面白い。一点、強いていえば、若尾文子の女性の魅力がうまく演出されていなかった印象を受ける。どうして、この女性に多くの男性がはまってしまったのか。その演出が弱かったと思う。