SSブログ

ゼミ生とともに営んでいた期間限定のコミュニティ・カフェが閉店を迎えた [地域興し]

ゼミ生とともに、大学のそばにある商店街高輪メリーロードにある空き店舗を借りてカフェを期間限定で営んでいたのだが、遂に閉店を迎えた。最初は12日間という短い期間での営業であったのだが、嬉しいことに商店会の方から続けて欲しいという依頼を受け、10日間ほど営業を延長させてもらえた。

さてさて、いろいろと本当に多くのことを学べたコミュニティ・カフェ経営であった。それらをここに、1)経営、2)仕事、3)コミュニティ資源、4)教育、5)広告(マーケティング)、6)メニュー、7)おでん鍋奉行、といった観点から整理してみたい。

1)まずは経営について。よく店舗稼業は、「ロケーション、ロケーション、ロケーション」と言われるが、確かにそうなのかもしれない、と思わせられた。何しろ、この高輪メリーロードは人通りが少ない。人通りが少なくてもお客が来るのは、そこが目的地でなくてはならない。カフェが目的地になるというのは、まずないことで、そういう点で、ちょっと無目的に寄るとか、カフェに行きたいなと思ってカフェを探したら、たまたまあったというような感じで訪れるお客さんはゼロではなかったが、相当少なかった。特に天候が悪いと、もう本当に客は来ない。
 あと、今回のコミュニティ・カフェでは遅い午前から14時ぐらいまでは、ホットドッグとコールスローなどの軽食とコーヒー、レイト・アフタヌーンはティー・タイムとして台湾の東方美人茶とこのお茶からつくったクッキー、そして夕方からはおでんと日本酒を提供したのだが、数日間、夕方の営業をやめたら本当に売上げが激減した。夕方からの営業をしない日の売上げは、4000円から9000円で一万円を上回る日は一度もなかった。これは、材料費等考えると、ほとんど利益が出ない。というか、テナント代を支払ったら赤字だ。このコミュニティ・カフェは誰も雇用していないので(ゼミ生は共同経営者)、損失はそれほど出ないが、これで人を雇用したら、そこで即アウトである。いやはや、カフェの経営の厳しさを思い知る。

2)次は仕事。私は高校生の時にアイスクリーム屋で働いていたことを除けば、飲食店で働いたことは皆無である。ということで、ほとんど初めての飲食店体験であったのだが、飲食店というのはなかなか楽しい仕事であることは分かった。というのも、私自身が料理好きであるのと、また食材とかに興味があるからだ。特に、今回はコーヒー豆と日本酒とおでんとかに拘り、急場しのぎで勉強したりしたのだが楽しかった。特におでんに関しては、3日に一度ぐらいのペースで築地市場に訪れ、場内でおでんの種や大根、かつお節などを仕入れてきた。築地市場に買い出しに行くのは楽しい。そして、来てくれた人に美味しいものを提供しようと努力し、お客さんが喜んでくれたりするのは大きな幸せである。これは、おそらく外食産業に向いている気質、というか少なくとも外食産業をすると楽しめる気質なのではないかと思われるが、自分がそういう性格であることを改めて発見したりして面白かった。
 なかには、このおでんは今ひとつだ、といって文句を言ってくるお客さんもいたりする。出汁を取るのは、かつお節を大量に使わなければ駄目よとかの文句も言ってくる。実際、我々は大量のかつお節(水に対して2%)を使っていたのだが、もう使っていないことを決めつけてくる。ここらへんはベテランだとうまく諭せるのであろうが、こちらは素人だ。ひたすら、有り難うございます、とお礼をいって聞かなくてはならない。というか、これが正しい態度であるかは分からないが、そういう対応をしてしまう自分がいた。ちょうど、私のいきつけの喫茶店のマスターがお客さんとして遊びに来てくれていて、そのやり取りについては、「ああいうお客さんを転がせてこそ一人前」と言われて、ああ、なかなか飲食業も厳しいなあ、と思ったものだが、生憎、そのお客さんは二度と来てくれなかった。本当におでんが今ひとつだと思ったのかもしれない。
 このように飲食業は、食事を提供するだけでなく、接客も重要な仕事であることを知った。会話上手、というか基本的には聞き上手でなくてはならない。私は職業柄、一方通行で話す場合が多いが、聞く訓練を随分とさせられた。これは、ちょっといい体験だったかもしれない。必然的にお客さんに興味を持つようになる。あまり、持ちすぎてもいけないのだろうが、お店にいる時はしっかりと話に傾ける。これって、ホステスの基本なのかもしれないが、そういう接客の側面が重要であることを随分と知る。

3)はコミュニティ資源であるが、カフェはコミュニティの広場、というか交流の場、憩いの場として、重要な価値を持つな、ということを改めて確信する。実際、このカフェで突っ立っていると、いろいろとコミュニティの情報がここに溜まってくる。昔の煙草屋のおばさんではないが、コミュニティの噂話などに随分と詳しくなってくる。なんか、コミュニティに渦巻いている情報が、出口を探して、ここに集まってくるようなイメージだ。また、そういうことで、ここに情報を収集したい人が来たりもする。まあ、我々がやっていたコミュニティにはそれほどの情報は集まらなかったが、長年、その土地に根付いたカフェはこういう機能を果たしているのであろう。私も例えば、週末でちょっとぶらっと散歩に来たお客さんとかには、周辺の商店の紹介などをする。「食事が美味しい喫茶店」や「豆大福で有名な松島屋の売り切れ情報」やコーヒー豆の焙煎屋などだ。そして、何より、カフェはちょっとした準公共空間でもある。マチの居間のようなものだ。こういう店があるマチとないマチとでは、なんかゆとりとか居心地のよさで違いができると思われる。カフェのゆるい空間によって、なんかマチに隙間がでて、その隙間を通じて、息苦しさや窮屈な何かが抜けていくような、そういう効果があると思われる。

4)の教育だが、実際、学生達が経営者の立場で、カフェに携わる機会などめったにないので、そういった点では、今回のカフェ経営で学生が得たことはとてつもなく大きかったと思われる。ただ、せっかくの経理の流れやマーケティング調査などをする絶好の機会であったのだが、カフェ運営に追われて、そのような情報をしっかりと収集できなかったことは返す返す、残念であった。ここらへんまで、経営者の立場でしっかりと行うことができれば、経営という勉強をするうえではとてつもなく貴重な機会であったと思われる。学生がしっかりと自覚しないと、良質なインターンシップだけで終わってしまう。ただ、これを改善しようと厳しく指導すると、学生はたちまち受身になってしまい、アルバイトと同じことになってしまう。学生が自ら、その機会が貴重であり、その機会をものにしようとする気概をもたなければ、時間と費用の投資を回収することは難しいかもしれない。まあ、費用は学生ではなく、私が自腹を切ったので、私の学生への教育投資の回収が悪いということですが。

5)の広告。1)で述べたように、カフェは人通りが少ない道路に面して立地している。ということで、このカフェの存在を人々に知ってもらわないと、誰も来ないことは予期できたので、広告をうった。具体的には、高輪1丁目〜4丁目にかけて新聞の折り込み広告を展開したのである。この折り込み広告代は3000部となり、およそ7000円程度。これだけであれば、問題がなかったのだが、印刷に印刷会社に頼んだので3万5千円程度かかった。これは、回収がほぼ不可能な値段であったが、一方で、周辺住民にまったく知られないで閉店を迎えるのはつまらないので思い切って売ってしまったのである。この経費を回収することはまったくなかったが、それでも、数人程度ではあったが、ちらし見たわよ、と言って訪れてくれたご近所の方がいたことは嬉しいことであった。印刷を白黒にするとか、ガリ版でするとか、そのような対応を今後、このような機会があったらするべきであったろう。見栄えのよさにちょっと気を取られたために、大きな赤字を出してしまったことはやはり失敗であったと言えよう。反省材料だ。

6)メニュー
メニューを考えるのは結構、楽しかった。まず、私のゼミはドイツのハライコ・ソーセージさんと長いお付き合いをさせていただいている。したがって、結構の量の注文にも対応してもらえる。また、ソーセージを美味しく焼くテクニックも多くのゼミ生は持っている。ということで、ホットドッグを出すということは簡単に決まった。ただ、ホットドッグだけだと寂しいので、コールスローを出すことにした。コールスローは私が結構、美味しいレシピを持っている。マヨネーズや砂糖を一切、使わず、白ワイン・ビネガーで浅漬けのようなコールスローなのだが、まあまあいける。砂糖を入れない代わりにレーズンで甘みをつける。これは、比較的簡単につくれるので、これを出すことにした。あと、午後の時間帯は、これまたゼミで手がけている台湾の東方美人茶のプロジェクトがあるので、これを出すことにした。また、商店街にとても美味しい珈琲豆の焙煎屋がある。そこは喫茶店ではないのだが、多くの人が珈琲を飲もうとして、そこに入る。そこで、ご主人に相談して、そういう誤解をした人はうちを紹介してください、と言ってもらい、ここから豆を仕入れることにした。ここの豆は本当に美味しくて、しかも高くない。サイさんというお店だ。そして、夜。借りたカフェはガスが使えない。電気コンロのみだ。この制約をうまく克服するためには、近くの喫茶店のマスターのアドバイスに従って、鍋物にすることにした。さて、何にするか。ボトフ、シチュー、カレーなどと学生と相談している中、私が「例えばおでん」と言ったら、「おでんがいい」と反応した学生がいて、私もこれはいけるかも、ということでおでんにした。幸い、築地の元場長が知り合いだったので、彼に築地の場内のおでん屋(つくごん)を紹介していただき、ここから種を仕入れることにした。がんもと厚揚げは、地元の豆腐屋である真水商店から仕入れた。大根は、ゼミ生の実家が農家だったので、最初はそこからいただいたが、その後、築地場内から仕入れることにした。築地市場には、そういうこともあって3日に一度は買い出しに行くことになったが、これは個人的には相当、楽しい経験であった。商品知識は随分とついたかもしれない。さて、あと夜という時間帯であることもあり、お酒を出そうと考えた。しかし、ビールとかワインとかいろいろと仕入れると不良在庫を抱えることになると考え、日本酒一本にした。急いで、日本酒入門という本を購入して読むことにした。それから分かったことは、純米酒しか出さないということである。醸造用アルコールが一切、入っていない日本酒だけ揃えることにした。日本酒は、ネットで、いい日本酒を揃えている酒屋さんから購入した。だっさい、ロ万、三重錦、などの一級品を揃えた。だっさいは、近くでだっさいを置いている店に出向き、基本的には買い占めた。買い占めたといっても、一人一本しか買えず、こちらは学生という人手はいたが、そもそもの在庫本数も少なかったが、3本は揃えることができた。ちなみに、だっさいはあっという間にはけた。このだっさいのブランド効果を知ったのも、カフェをやったからである。
 あとメニューを考えると同時に、価格を決めなくてはいけないのだが、これは学生は、大いに悩むことになる。値段を決めるのは相場と原価である。ただ、学生は自分で決めるというか、判断をすることがとても苦手だ。私がやるのは簡単だが、それじゃあ、面白くない。まあ、日が経つにつれて、学生達は新メニューをつくったり、それの値段を自分たちでも決めたりするのだが、最初は大変であった。おでん屋に各自、散らばって価格調査をし、また仕入れの原価から、ある程度、値段を決めることになったのだが、結局、おでんに関しては私が決めた。これは、私が買い出しなどもしてしまったからである。

7)おでんの鍋奉行
 これは、ちょっとおまけ的なことだが、おでん屋をして、おでんの鍋奉行の重要性を知った。私はサラリーマンの時から、神田のおでん屋である尾張屋が好きでよく通っていたのだが、ここのおかみさんは、おでん鍋をまるでオリバー・カーンがゴールを守るがごとく、守っている。ちょっとおでんの鍋から離れた時に、お客さんの注文があって、実の息子さんがおでんの鍋から商品を取り出したことがあるのだが、それを知った時、お客のいる前でも烈火のごとく、怒ったことがある。私は、普段、とても温厚なお母さんの、そのあまりの怒りように驚いたのだが、おでん屋で鍋奉行を経験して、このお母さんの気持ちがよく分かった。というのは、おでんの鍋奉行はとても難しい、というか、一人しか出来ないのである。なぜなら、おでんの種は、それぞれ鍋に入れておく時間が違う。例えば、東京揚げなら2分、はんぱんも4分程度、たこなら2時間といった具合だ。長いのは揚げ出しや大根で、これらは一夜置いておいた方がいい。そして、注文が来たら、出すのはもっとも長く鍋にいるものからである。種の置き方にはルールをつくったが、それでも、いろいろと一つ一つの種の状況を把握できるのは、鍋奉行だけだ。ということで、おでんの鍋奉行というのは、一人、このおでん鍋というミクロコスモスを支配している神のような存在であるということが分かった。今回のコミュニティ・カフェではシフトの関係で、私を含めて4人しか鍋奉行をさせないようにして、しかも、途中でシフト・チェンジをさせないようにした。まあ、この鍋奉行は結構、楽しい仕事であった。お客さんにお勧めするときも、リアルなコミュニケーションとなる。

 他にもいろいろと書きたいことがあるが、この記事ではこれくらいで。また、何か思いついたら書き足すこともあるかもしれない。しかし、いろいろと大変で、自腹も結構、切ったが、体験として得たものは大きなものがあった。ゼミ生もそうだが、自分も成長できた体験である。また、どこか機会があれば、是非ともチャレンジしてみたいと思う。

IMG_1007.jpg
(高輪メリーロードという旧東海道の高輪消防署のそばにコミュニティ・カフェはある)

IMGP5882.jpg
(コンセプトはゆるカフェ。ゆるいカフェを狙ったが、結局、私の厳しい監督のもと、学生達はまったくゆるくなれなかった)

IMG_1018.jpg
(たまにライブ・イベントをやったりした。この日はとても盛況。非常勤ブルースで有名な佐藤壮広先生に来てもらってギターの演奏をしてもらった。とても楽しい一日)

IMG_1030.jpg
(ゼミ生は、アルバイトではなく共同経営者の立場で、少なくとも3年生には関わらせた)

IMG_1080.jpg
(この日はゼミのOBとOGが集まってくれたので盛況だった)

IMGP5890.jpg
(お昼から夕方までは、高輪商店街の至宝ともいうべき珈琲豆の焙煎屋さんのサイさんから珈琲豆を仕入れて、注文してから挽いていたので、結構、美味しい珈琲を出せていたのではないかと思います)

IMG_1059.jpg
(つくごんさんの薩摩揚げ。ジャンボ。つくごんさんなので味は間違いない。コンビニのおでんばかり食べている学生には驚きの美味しさ)

IMG_1107.jpg
(築地市場であまりにも美味しそうなタコをみつけたので、一匹そのまま購入。刺身で食べたも絶品だったのですが、おでんに入れました)

IMG_1098.jpg
(コミュニティ・カフェをゼミでやるというのは、本当、5年越しの夢。しかし、私がやる気でもゼミ生がしっかりしていないと、すべてがうまくいかない。そういう中、田中(左)をゼミ長とする9期生は大変、しっかりしており、責任感も有していたこともあり、私のカフェをやるという気持ちを後押ししてくれた。この代がなければ、このコミュニティ・カフェは実現しなかったでしょう)

IMG_1103.jpg
(ベストセラー作家の三浦展さんも遊びにきてくれました)

IMGP5881.jpg
(そして迎えた最終日。天気も悪く、あまり盛り上がりませんでしたが、それでも数名の人が名残を惜しんで訪れてくれました)


nice!(1) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 1