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サントスの路面電車に乗って、都市観光のつくり方を考える [都市デザイン]

 サントスの路面電車に乗る。サントスでは馬が引っ張るストリート・カーが1871年から開業し、その後、1909年から路面電車が走るようになった。この路面電車は1971年まで開業していたが、その後、廃止されていた。しかし、2000年からこれを観光目的に再開させるようにしたのである。実際、これに乗車してみた。乗車料金は5ヘアイス。路線は8の字状になっており、歴史的中心市街地を巡る。時間は40分ちょっと。サントスのバス・ターミナルのそばの広場から乗車できるので、とりあえず乗って、サントスの歴史中心市街地をざっと知るにはとてもいいのではないだろうか。
 さて、この路面電車の再開に合わせて、サントスはコーヒー博物館を開業したり、街中にサインを設置したり、主要なポイントに地図を置いたりしている。その結果、サントスの歴史的中心市街地は、歩いて観光することができる。歩いて観光することを促すように、路面電車が走っていたりする。というのは、路面電車はバスのターミナルから近いので、バスでここに来ても、乗用車やタクシーを使わずに、歩いてすぐ乗ることができる。そして、路面電車の走行スピードはゆっくりしているので、この歴史的中心市街地自体が、ヒューマン・スケールであるように感じられる。そのような演出効果が路面電車にはあるのだ。
 このような試みは、都市のディズニフィケーションと言われる。都市を観光客のために装うということで、あまり肯定的な意味では使われていない。それは、観光地としての表面的なお化粧であるといった揶揄として使われたりもする。このような事例は、例えばニューメキシコのサンタフェや、日本でも伊勢のおかげ横町などがそれに該当するであろう。一方で戦災前の街並みを正確に復元したドイツのミュンスターはそうは言われない。ここらへんの違いは若干、微妙であるが、サンタフェの場合は、表向きはアドービだが中身はコンクリートのいかにも伝統的な建物をつくったりしていることや、おかげ横町も昔の街並みを再現しているが、昔の建物とは違って、新しく昔風の建物をつくっていることが、ディズニーランドのような偽物臭さをそのような批判者に与えていると思われるのである。
 それに比して、ドイツのミュンスターはもう信じられないような執念で瓦礫から元の状態に戻した。その悲劇と努力に対して、ディズニフィケーションといった批判をすること自体が憚られることがあると思う。そして、それは観光地化ということを意識するよりは、俺が街並みを元に戻したいということから実践したことも、前者の事例とは一線を画させている点だと思う。同じような事例としては、ワルシャワなども挙げられよう。
 さて、私もどちらかというと、そのようなディズニフィケーションには批判的な視点をもっていたのだが、このサントスに来て、そのような考えは吹っ飛んだ。いいじゃん、ディズニフィケーションで、という気分だ。というのも、サントスの歴史的中心市街地はずっと衰退していたのだ。せっかく、歴史都市としての観光コンテンツを有していたにも関わらず、それがまったく地域資源として使われなかったのである。観光客のために、コーヒー博物館を開業して、そして、路面電車を復活させることで、観光客のためだけでなく、地元の人達も、自分たちの歴史を知り、そしてアイデンティティを確認することができる。そして、何より、外部の人が来て、感心してくれることで、自分の街に対しての誇りが生まれてくる。多少の金も落とすであろう。多少、観光客にこびるような街並みをつくっても罰は当たるまい。
 そして、このような観光都市として整備していくうえで、つくづくサントスで感じたのは、「歩ける」ようにすることの重要性である。というのは、都市観光は何しろ、「歩く」ことが楽しみだからである。というか、都市の楽しさを一番、満喫できる交通手段は徒歩である。次いで自転車だ。そして、徒歩であれば、路面電車のように、徒歩との相性がよく、エンタテイメント性の高い交通手段を提供して、徒歩の弱点を補うような工夫をするといいであろう。そのためには、歩行者の最大の敵である自動車を観光重点ゾーンから追い出し、歩行者のオリエンテーションをフォローする地図やサイン計画をしっかりと策定し、歩いて楽しめるようなカフェなどの休憩スポット、情報供給拠点、そしてベンチなどをあちらこちらに設けるべきであろう。こうすることによって、都市観光の魅力は相当、向上できるだろう。
 などと考えて、日本の都市は往々にして、駅前が巨大なロータリーになっていて、徒歩での観光を促進するような仕掛けがないところばかりであることに気づいた。仙台市も金沢市も、富山市も、宇都宮市も、静岡市もどこもそうじゃないか。例外を思いだそうとしても全然、思い出せない。日本人だけでなく、外国人をも惹きつけようとするのであれば、この徒歩による都市観光の魅力を大幅に向上させるべきであろう。これは、私、コンサルタントの仕事を引き受けてもいいほど、今はやる気が勝手に出ている。サントスに感心したからである。

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