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なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力四〇年戦争の真実 [書評]

海外諸国の経済動向、政策などを紹介する本は数多もあるが、眉唾ものも少なくない。また、まあ大まかにはそうなのだろうなとは思いつつも、そこは違うだろうと突っ込みたくなるような本が多い。特にドイツ本は、私がドイツにて生活したこともあり、多くのドイツ紹介本は、それほど信頼できないなとの読後感を覚えている。そのような中、私が相当信頼しているのはこの本の著者でもある熊谷徹である。NHKのジャーナリストをしていたバックグラウンドがあるため、日本の状況にも精通しており、またドイツで20年以上も生活していることもあり、日本とドイツとを比較する視座がしっかりとしている。そして、ジャーナリストとしての切り口が鋭いので、この本のテーマのような政治的背景をしっかりと把握していないと考察できないものに相対すると、彼の強みが遺憾なく発揮される。特にこの本に価値をもたらしているのは、彼が必ずしも反原発ではなく、反原発側の論理的ではない点、原発推進側の主張もしっかりと紹介していることである。これによって、ドイツの客観的な状況を知ることができる。こういう形で整理するのは、簡単なようでいて難しい。著者が極めて誠実なジャーナリストであることが、このような点からもうかがえる。

私自身、ドイツの反原発という大きな社会のうねりを身近に感じていたのだが、著者の整理は大変、状況を理解するのに役に立つし、またその分析は説得力のあるものだ。著者の分析であるドイツ人は「木を見ず森を見て」、日本人は「木を見て森を見ず」というのは、私のドイツ生活の経験からもGenau(納得)である。このような本は熊谷徹ではないと書けなかったであろう。こういう優れたジャーナリストが、ドイツ在住で日本に発信してくれることを、私は個人的に大変有難いと思う。これまでも彼の著者は幾つか読んでおり、どれもそれなりに読んだ価値があったと思っていたが、本書はまさに傑作であり、著者のまさに真骨頂であると思われる。


なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力四〇年戦争の真実

なぜメルケルは「転向」したのか-ドイツ原子力四〇年戦争の真実

  • 作者: 熊谷徹
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2012/01/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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