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今井町は日本のローテンブルクだ [都市デザイン]

奈良県今井町を訪れる。もう30年近く行きたいと思っていた場所だったのだが、なぜかこれまで訪れることがなかった。まあ、そもそも奈良にもほとんど行く機会がないくらいだったのだが、海外にはよく行く癖に(年間海外滞在日数は毎年60日〜90日くらい)日本の重要な場所に行っていなかったりするのである。しかし、海外ばかりを知っていても日本を知らなくては比較分析もできない、ということで最近は努めて日本を知ろうと考えているのだが、まあ、そういうことで地方へ出張があるとちょっと足を伸ばそうと努めている。今回は大阪出張が入ったので、吉野だけでなく今井町にも訪れることにしたのだ。

今井町は近鉄の八木西口駅から歩いてすぐのところにあった。海の堺、陸の今井と言われ、江戸時代に興隆した寺町である。現在でも街の大半が江戸時代の姿を残しており、実際、住居としても使用されている。街中を歩くとおでんの匂いが鼻をつき、子供がピアノの練習をする音が街路に響く。ここは江戸時代の姿をしても、21世紀においても生きている街なのである。「あのアド街ック天国の「懐かしい風景が残る街」で堂々の1位にも輝いている。ちなみに第二位は世界遺産の白川鄕、第三位は妻籠宿であるから、今井町の街並みのクオリティの凄さが分かるものだ。ちなみに、1993年、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、あのミシュランでさえ星一つの評価をしている。

そして、実際、今井町を訪れて私は涙を流すほど感動した。よくぞ、このような街並みが残ってくれたという感謝の気持ちの涙である。それは、日本人に生まれてよかった、と思わせてくれる街並みであった。おそらく、ドイツ人がレーゲンスブルクやゴスラー、ケドリンブルクを訪れた時に感じるドイツ人であることへの誇り、ドイツ人のアイデンティティを再確認するような気持ちを、日本人である私もここ今井町にて感じることができた。なんて有り難いことであろうか。この今井町こそ、上記の世界遺産に指定された3つの都市ほどの水準には達していないかもしれないが、少なくとも日本のローテンブルクであると私は感じたのである。そう、今井町こそ日本のローテンブルクになり得る極めて希有な事例なのである。

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私は猛烈に感動して、今井町を歩いていた。ただ、今井町の家屋のリノベーションをコンサルする人に話を聞くと、今井町の厳しい保全期制に対しては住民の間にも温度差があるとのことである。それをプラスとして考える住民とマイナスとして考える住民がいるということだ。実際、今井町の大多数の家々は江戸時代の風情ある街並みを維持することに熱心であるが、一部の家は平気でこれらの街並みの調和を乱す現代的な家を建てたり、安普請のアパートを建てたり、駐車場を設けたりしている。江戸時代を彷彿させる街並みに自動車は恐ろしく合わないが、駐車場はさらに合わない。

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(自動車と現代的な家が街並みの調和を乱しているのは残念)

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(このような駐車場のボイド空間は、街区割りのスケールを乱す。街並みだけでなく、街区割りも次代に継承すべき資産であることを認識すべきであろう)

このような街並み保全政策においてコンセンサスを形成することが極めて難しいことは理解できるが、この街並みは日本人が日本人であることを確認できる極めて希有な有り難き事例であり、それは法隆寺や日光東照宮と同じように保全されるべき街並み、そして街区割りであると思われる。どんな文字、そして映像でも表現できない素晴らしい都市空間が今井町にある。そして、それは世界中でここだけにしか存在していないようなものなのだ。保全意識が低い住民には、それなりの補償をすることで、それを収容するなどして、この世界に誇れる日本的な都市空間と建築を次代に引き継ぐよう最大限の努力をすべきであろう。

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(今井町こそ、最近私が翻訳した『世界が賞賛する日本の町の秘密』で、著者が絶賛する自転車町内である)

私は、日本にもローテンブルクが存在していることを知り、本当に日本人であることを嬉しく思った。今井町は、そういう気持ちを人々に与えてくれるとてつもない力を有しているのである。グローバル化が進展すればするほど、この今井町の価値は高まっていくであろう。

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