SSブログ

中沢孝夫『地域人とまちづくり』 [書評]

 中沢孝夫の『地域人とまちづくり』を読む。先日、同著者の『変わる商店街』を読み、呆れたのだが、ゼミ生がこれを課題図書にしたのであまり読みたくないが読んだのである。
 さて、前著と同様に、いやある意味でそれ以上に酷い本であった。ちょっと愕然とする。著者のスタイルは取材である。現場でどのようなことが起きたのかをジャーナリスティックに紹介する。しかし、それを分析する視座は「地域は人がつくる」、「街を活性化させるのは個々人のエネルギーと情熱」といった二点はしっかりとしているが、他の「景観問題」やら「ボランティア」やら「都市計画」に関して、語り始めると、もう勉強不足が明らかになる。ちょっと売れたから背伸びしたら馬脚を現したといった状況か。あと『変わる商店街』でもそうだが、アメリカの事例報告は本当に酷くお粗末である。アメリカだから読者は知らないと思って、聞いたことをろくに検証もせずに報告しているのだろうが、私はたまたまここで紹介されているオークランドのサンアントニオ地区周辺のアフォーダブル・ハウジングを多く設計したマイカル・パイアトックの建築スタジオを2回も履修し、設計課題もオークランドのまさにこの周辺地区であった。さらにマイカル・パイアトックの活動を日本でも著書にまとめて紹介したりしたので、この件をよく知っている。そのように知っているものからすると、サッカーの評論家が料理のことについて評論しているような滑稽さと悲しさを感じてしまうのである。
 まあ、本人も意識的にか、無意識的にか、突っ込んだ分析を回避するような言い回しが非常に多い。「詳述はしない」、「当然のことだが」、「知らない人はいないはずだ」、「これ以上触れないが」、「・・・と書いているときりがないので、この辺で止めるが」。このような言い回しで、表面的な分析、もしくは自分が見たものしか報告しないようなかたちで事例が紹介されている。まあ、それはそれで無意味であるとは思わないが、事例研究という観点からは不十分であり、読み手は消化不良となる。
 あと気になるのはやたらと引用が多いことである。香西泰、山崎正和、芦原義信、金子郁容、田村明、松原隆一郎、Jジェイコブスなどを始めとして、多くの引用が為されており、あたかも著者の読書感想文のようなものとなっている。しかも特に私の専門フィールドである都市デザイン分野での文献に関しては、著者の知識が浅薄であるがゆえの軽薄なる分析が為されており、読書感想文としてのレベルも低いと言わざるを得ない。
 本を読んだ後、私も帯広の「北の屋台」などは訪れたいなと思ったので、まったくの無価値とまでは言わないが、機会費用は無駄にしたと言わざるを得ない。なんで、こんな人が岩波や講談社から本を出せるのであろうか。そちらの方がむしろ不思議だなとの印象を受ける。

〈地域人〉とまちづくり 講談社現代新書

〈地域人〉とまちづくり 講談社現代新書

  • 作者: 中沢 孝夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2003/04/19
  • メディア: 新書



タグ:中沢孝夫
nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0