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『ソナチネ』 [映画批評]

北野武監督・脚本の『ソナチネ』をいまさらながら観る。ストーリーはあるようでないに近いが、圧倒的な映像の迫力、そして暴力と狂気の持つ魅力に画面に惹きつけられる。一瞬たりとも観る者を弛緩させることなく、最後まで見させる演出は素晴らしいものがある。全般的に、村川の凄まじいばかりの狂気が映画を支配している。冒頭の雀荘のマスターのリンチ、高橋へのトイレでの暴力、ロシアン・ルーレットごっこ、そして最後の拳銃自殺。しかし、一方でこの村川の狂気の合間に、ストーリーと関係ないアドリブ的な遊びの要素も数多く含まれており、映画ファンとしてのたけしが垣間見られて興味深い。ああ、たけしは映画が本当に好きなんだなあ、ということが映像を通して伝わってくる。映画の持つ楽しさ、例えば紙相撲のシーンとか、国舞亜矢がなんの脈絡もなく胸をはだけるシーンとかは、まったくもってストーリーとは関係がないが、この場面があることで、この映画はその魅力をむしろ高めている。これらの場面がなくても、ストーリー上には何の支障もないし、また逆にあることでストーリーを理解しようとする思考を邪魔するだけなのだが、この場面は映画というものの魅力を知っているものでしかつくれない。特に国舞亜矢の乳房などは、まったく脈絡もないのだが、これをみせられて損をしたと思う男はいないだろう。みんな、ちょっと得をしたと思った筈である。加えて、沖縄を舞台としたこともあって、沖縄の自然の美しさと狂気と暴力のコントラストが際だつ(ロケをしたのは石垣島だが)。この映画には、ストーリー展開の面白さは少なく、メッセージ性のようなものもほとんど皆無に近いと思われるが、その映像の魅力が玉手箱のように押し詰められていて、映画の素晴らしさが充満している。映画好きなら堪らない傑作であろう。公開当時、1週間で上映を打ち切る映画館があったとは驚きだ。まあ、私も公開時は観ていないのだが、この映画は間違いなく傑作であろう。

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