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『リバーズ・エッジ』 [書評]

岡崎京子の「リバーズ・エッジ」はとてつもない傑作である。岡崎京子の感性が天才的レベルにあることがよく理解できる作品である。東京の下町の閉塞感、行き詰まりを鋭く残酷に、そして詩情溢れて描いている。漫画というメディアの凄さを思い知る。登場人物はほとんど救われない。最も脳天気な女の子が狂気に走り、主人公の家を放火して自らも命を絶つところなどは、鳥肌立つものがあるが、そういうことってあるよね、と思わせる説得力に溢れている。主人公の若草ハルナが最もまともであり、読者をこの狂気溢れる東京のティーンライフに安心感を持たせて入り込ませるナビゲーター的役割を果たしているのだが、最後の方でモデルをしている吉川こずえが「あの人は何でも関係ないんだもん」とホモの山田に言うところは、凄い。というのは、このような狂気的な東京ライフにおいて真っ当に生きていくためには「関係ない」関係性を築かなくてはならないことを鋭く指摘しているからだ。そして、おそらくそうなのであろう。私が日頃接する学生達の特徴は「関係ない」である。それはやる気のなさとかそういう浅いものではなく、そうしていかないと生きていくことが難しいから自然と身に付いたものなのであろう。しかし、その「関係ない」はどこにも向かうことはせず、一方で市場経済によってそのような意識を持つものは淘汰されるのである。関係性を築こうとすると不愉快な現実に直面し、しかし築こうとしないと大学までは生き延びられるが、そこからは駆逐される。

だから大学で鍛えるしかないんだよね。知力と精神力を。「関係性」を築こうとする意志を。そのうちどうせくたばる訳だが、そのくたばる直前まで努力をするのが人間だけでなく生物の見えない、というかDNAの意志であろう。それ以外に道はあるのか?まあ、私は俗物ですから引退して仙人のような暮らしはできないでしょうが。それにしても、この10年以上も前に書かれた漫画、今読むとまさに現在の日本の都市の現実をまざまざと描いているようにも思えて、まるで予言の書のようである。まさにリバース・エッジのような事件が今、日本中で頻発している。岡崎京子の社会を見る洞察力の凄さに深く感銘する。英語で書かれていたら、ノーベル賞級であろう。

リバーズ・エッジ 愛蔵版

リバーズ・エッジ 愛蔵版

  • 作者: 岡崎 京子
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2008/10/09
  • メディア: 単行本



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