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岡崎京子の『ヘルター・スケルター』 [書評]

岡崎京子が1995年から1996年まで『Feel Young』に連載した『ヘルター・スケルター』を読む。彼女が交通事故に遭う直前に連載を終えた作品だ。ほとんどサイボーグのように全身整形された売れっ子モデルのりりこが絶頂期から墜ちていく壮絶なる様を描いている。「美」という儚く、空虚な価値のために、全てを注ぎ込み、身体を代償にしてまで得る女性の執着の凄さと欲望の深さに読んでいて頭がクラクラする。しかし、りりこが求めていたのは「美」を得ることでの周囲への支配力、影響力であって、必ずしも「美」そのものではなかったのかもしれない。「美」というものについて、深く考えさせる岡崎京子の凄まじいばかりの傑作。

タイトルはビートルズの『ホワイト・アルバム』に入っているポール・マッカートニー作の曲から取られているが、そのヘビー・メタル調の曲はビートルズの作品の中では極めて異質で、また優しいメロディのラブソングスを得意とするポールの曲の中では、例外的に攻撃的なものである。そして、この岡崎京子の作品はこの「ヘルター・スケルター」をインスパイアさせるような内容である。実際、つくられた順番は逆なのであるが、非常にぴったりくるタイトルだと思う。そして、岡崎京子のこの曲と同名の作品の凄さは、ビートルズに勝るとも劣らないほどのものだと思う。90年代という時代の虚構さを見事に描いた漫画史上に残る傑作であろう。

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

  • 作者: 岡崎 京子
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2003/04/08
  • メディア: コミック



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