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「コーリング・オール・ステーションズ」は期待するとがっかりだが、期待しなければそれほど悪くない。 [ロック音楽]

ジェネシスの最後のアルバム「コーリング・オール・ステーションズ」。ポップ色を除して、昔日のプログレ回帰を試みたと解釈されているアルバムだが、フィル・コリンズがいなくなって、ポップ色を出せなくなっただけとも解釈できる。マイク・エンド・ザ・メカニックスがポップ色を追求して駄作をつくってしまったことなどから考えても、あのポップなジェネシスはフィル・コリンズのポップ・センスがアレンジ面等でも不可欠だったのではないかと思う。とはいえ、マイク・ラザフォードだけでも、マイク・エンド・ザ・メカニックスの傑作「マイク・エンド・ザ・メカニックス」という秀逸なるソフトロック・アルバムを制作できたことを考えると、ちょっと流石のラザフォードもバンクスもその天才的メロディー・センスに薹が立ってしまったのかもしれない。これは、ポール・マッカートニーやエルトン・ジョンのような天才メロディ・メーカーでも起きていることなのでしょうがないことかもしれない。とはいえ「コーリング・ザ・ステーション」、「ディヴァイディング・ライン」といった幾つかの名曲があり、駄作と片付けるのは忍びない。あくまでラザフォードとバンクスの天才性を期待していると肩すかしを食らってしまうというレベルであり、それほど悪くはないだろう。

フィル・コリンズが抜けたことでレイ・ウィルソンが新加入してボーカルを担当している。ジェネシスの長い歴史の中で、スティーブ・ハケットとフィル・コリンズが2枚目で加入して以来、ひたすらメンバーは少なくなる一方だったのだが、さすがに2人では厳しいということでおそらく断腸の思いで新メンバーを導入したのであろう。さて、レイ・ウィルソンは、フィル・コリンズやピーター・ガブリエルのような強烈な個性を有していないボーカルだが決して外してはいない。よりAOR色が強くなったのは気になるが、それなりに味わいのあるボーカルであると思う。声質は素晴らしいと思う。しかし、以前のジェネシスに比べて何が致命的に欠けているかといえば、それは明々白々、フィル・コリンズのドラムである。フィルの強烈な自己主張が伝わるドラミング、たちまち緊張感で空気が張り詰めるような、ある意味で落ち着かせないドラムがこのアルバムには必要だったと思われる。まあ、昔のようなドラムはフィルももう叩けなくなってしまっているので(それが.ジェネシスが再結成できない最大の理由であると思われる)、無い物ねだりではあるのだが惜しい!と思わずにはいられない。また、キーボードも昔の『そして三人が残った』の「ダウン・アンド・アウト」のような音空間をねじ曲げるかのような強烈なソロは一切なく、なんかサンタナのような簡単だけど渋いソロを目指しているようで、ああトニー・バンクスも年を取ったのだなあと思わずにはいられない。

総じて、ジェネシスの水準には満たしていないという点からは低い評価をせざるを得ないアルバムであることは間違いない。とはいえ、私のように『デューク』でほとんどジェネシスは終わってしまった人間からすると、まあ、そんなに悪くはないんじゃないかとも思われる。ジェネシスを期待すると最低レベルのアルバムかもしれないが、通常のソフト・ロックのアルバムとしてみると決して悪いアルバムではない。ただ、このドラムをフィル・コリンズが叩いていたらとか、トニー・バンクスの昔日のキーボード・ソロが弾けたら、という点から捉えるとどうしても今ひとつなのである。ちょっと往年のジェネシス・ファンからすると、しかし最後のスタジオ・アルバムがこれというのは残念だ。まあ、多くの偉大なるロック・アーティストの最後のアルバムは駄作(ビートルズは例外。ツェッペリンとかディープ・パープルとかイーグルスとかドゥービー・ブラザースとかELPとか、皆駄作でしょう)であることを考えると致し方ないのかもしれないが、やはり寂しいものを感じる。この寂しさを感じさせないためにも、もう少し老体にむち打ってもらいたかったと思うのはファンの我が儘であろうか。

コーリング・オール・ステーションズ(DVD付)(紙ジャケット仕様)

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2007/12/26
  • メディア: CD



マイク&ザ・メカニックス

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  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ダブリューイーエー・ジャパン
  • 発売日: 1988/12/10
  • メディア: CD



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