SSブログ

縮小都市の超優等生ライネフェルデを訪れる [都市デザイン]

縮小都市の超がつく優等生であるライネフェルデを訪れる。旧東ドイツの縮小都市オタクと化している私であるが、このライネフェルデには関心をあまり持たずにいた。近くを自動車で通ったこともあるが、ちょっと寄ることもしなかった。これは、ライネフェルデは確かに旧東ドイツに属し、繊維産業の拠点を計画的につくりプラッテンバウテンを整備するなど、いわゆる旧東ドイツの産業都市として開発されたために、再統一後、それらが抱える縮小問題を共有してはいたが、旧西ドイツにすこぶる近いという立地が、他の縮小都市は異なって極めて有利な条件をこの都市にもたらしていると考えていたからである。ライネフェルデにはゲッティンゲンから列車で30分強、カッセルにも1時間弱で行ける。自動車でなら尚更速く到達できるであろう。したがって旧西ドイツの都市と広域都市圏を形成することが可能である立地。加えて、ドイツの文化面でも歴史的に重要な役割を果たしたアイゼナッハやエアフルト、ヴァイマールからも遠くない。このように立地的にはすこぶる優位性をもっており、アイゼンヒュッテンシュタットやシュヴェートなどとは比較にならないくらい恵まれている。つまり、ライネフェルデは、条件が一般的ではなくて特殊であるが故に成功したのであって、そこから普遍的な縮小への対応策を見出せるとは思わなかったからである。したがって、そんなに興味を抱かなかった。加えて、既に明治大学の澤田先生とかが研究を相当蓄積されている。敢えて、新たな情報も得られないであろうと思っていたのである。

さて、しかし、このライネフェルデをべた褒めする本を見つけた。「ライネフェルデの奇跡」というタイトルの本だ。しかも、これが英語訳だけでなく、なんと邦訳まで出ていることを知った。この出版不況に、この住民のための卒業アルバムのような本を日本で出版するということに相当驚くが、もしかしたら私は何か大きなことを見ていないのかもしれないと思い、本を入手して、ベルリンからの帰りに、ライネフェルデに寄ることにしたのである。宿はゲッティンゲンに取った。

ゲッティンゲンのホテルを朝に出て、ディーゼル車でライネフェルデに向かう。このディーゼル車はケムニッツ行きである。ゲッティンゲン発ケムニッツ行きというだけで、妙に高揚する自分に気づく。このディーゼル車はハルツ山地の北を走り、チューリンゲンの森をくぐり抜け、ザクセン州の工業都市ケムニッツに行くのであろうか。再統一以前には考えられないルートである。再統一後のドイツ鉄道のネットワークを再構築する仕事は相当、楽しかっただろうなあとちょっと羨ましく思う。意外と仕事をしている本人は嫌々としていたかもしれないが。

それはともかくとして、ライネフェルデの駅にはトランクを持って行った。ゲッティンゲンの駅のコインロッカーに入れるという手もあったが、帰りは出来ればカッセル経由でゲッティンゲンに寄らずに帰りたい。まあ、ライネフェルデの駅にもコインロッカーぐらいはあるかもしれないと賭けたのである。しかし、なんとライネフェルデの駅はコインロッカーどころか無人駅であった。自動販売機が一台ぽつねんと置いてあり、日本でも1960年代頃まで田舎で見られたような木造の安っぽい、とはいえ風情のある屋根がホームにあるだけの駅であった。このトランクを持ってプラッテンバウのある住宅街まで歩いて行くのは辛い。とはいえ、タクシーに乗るもの癪だと思っていたら、どうもコミュニティ・バスが30分ごとに運行されていることを知る。これは、平日は朝から夕方18時まで。土曜は午前中だけ。日曜は運休というものであったが、ちょうど30分で街中を一周するので有り難いと思い、それに乗る。

IMG_0145.jpg
(ライネフェルデの駅。ノスタルジーを覚える)

IMG_0151.jpg
(なんか縮小都市が共有する侘びしさがあまり感じられない。都市デザインをしっかりしているからかもしれない)

さて、このコミュニティ・バスは15名くらいが定員で、すこぶる小さく、ボンエルフも走るなど、相当、小回りがきいているなと感心する。利用者も多く、なかなか賢い公共交通であると思った。値段は1ユーロ20セントである。たまに時間調整のためにバス停で数分止まったり、運転手は運転中に携帯電話で話をしたりするなど、日本ではとても考えられない光景に愕然とするが、高齢化が進む縮小都市に、このコミュニティ・バスが果たす役割は大きいだろう。このコミュニティ・バスに乗ったおかげで、どこに何があるのか、ライネフェルデという都市の概要とスケールを理解することができた。駅に戻り、これからどこの団地の写真を撮ろうかと思ったら、雪が降ってきた。寒いし、トランクもあるので、そのままライネフェルデを後にすることにする。ちょっともったいないが、大体の都市のイメージを知ることができた。写真は撮影したい気もするが、購入したライネフェルデの本は写真が半分以上という写真集のような体裁であるので、まあいいかと思う。それほどフォトジェニックではないし、都市デザイン的な知恵は随分と凝縮されているようだが、それらもドイツに1年暮らしていると、そんな斬新さは覚えない。確かに、ブランデンブルク州やザクセン・アンハルト州などの縮小都市とはまったく違う、活力を短い滞在でも街から感じることはできたし、大いに参考にはなるだろうが、雪と何よりトランクを引きずることの嫌さが好奇心を上回ったのである。1時間ちょっとの滞在であった。

IMG_0152.jpg
(コミュニティ・バスの運転手はおばさん。多くの乗客とは顔見知りであった。時間調整をしている時、ゴシップ新聞をおもむろに取り出して読み始める。先を急いでいる客がいないのか、誰も文句も言わない)
ライネフェルデの奇跡 まちと団地はいかによみがえったか (文化とまちづくり叢書)

ライネフェルデの奇跡 まちと団地はいかによみがえったか (文化とまちづくり叢書)

  • 作者: W キール
  • 出版社/メーカー: 水曜社
  • 発売日: 2009/09/03
  • メディア: 大型本



nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0