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インドネシアの都市計画がうまく行かない理由の一つを知る [都市デザイン]

インドネシアのマカッサルに来ている。行政職員を対象とした集中研修講義のためである。行政職員はたいへん熱心に聴講してくれ、質問も活発だ。都市計画への理解も大変進んでおり、正直、日本の職員よりも世界的な都市計画の潮流を把握していると思われる。4年前にも講演したことがあるのだが、その頃に比べると、話への食いつきが全然違う。そういった意味では充実した時間をこちらも送れているし、また、将来のマカッサルにも期待を抱かせる。わざわざドイツから来た甲斐があった。

しかし、こういった職員レベルが優秀であるにも関わらず、行われる都市計画、都市政策がしっかりしているかというと話は別である。JICAがこのマカッサルを核とする広域都市圏計画を策定している。これは、以前、私も多少関与した計画であるが、その計画の中でマカッサルの緑地計画の目標指標を挙げている。マカッサルは全市域の5%を緑地化することを目標として設定している。さて、これに対してマカッサルがどう動いたかというと、民間の土地を緑化するということをしないで、海を埋め立ててそこを緑地化するというアイデアを出してきた。アイデアを出したのは、市長と懇ろの都市計画コンサルタントである(事業は市のものではなく州のもの)。そして、アイデアを出しただけでなく、その計画を策定する予算を州政府に計上させた。海を埋め立てて緑地にするのであれば、何のための緑地化か分からない。というか、海を埋め立てるという環境破壊をして、本末転倒である。この際、しかし、この都市計画コンサルタントがつかった論拠は、JICAの提案だから従わなくては不味いでしょう、というようなものだったらしい。もちろん、これが馬鹿な提案だというのはこのコンサルタントも分かっていると思う。しかし、この計画策定の仕事を受注するのは彼である。恐ろしいことだ。

通訳をしてもらっている地元の大学の先生は「皆馬鹿で困る」と言っていたが、私は聴講している職員達は、これが馬鹿な話であることは分かっていると思う。しかし、寄らば大樹で、批判をしないだけなのである。まあ、実際、批判をしても暖簾に腕押しのようなものだろうし、もしかしたら左遷されるかもしれない。どちらにしても、上司にケチをつけていいことはないというのは、日本よりもこちらの方がさらに極端にいえると思う。

また、一般的にインドネシアでは「公」の利益を犠牲にして、土地の私有化を図り、その開発利益によって儲けるということがまかり通っている。なんのための計画かと思う。さらに、上記の例もそうだが都市計画は役所が実施しないでコンサルタントが実施する。すなわち、都市計画という役割を「公」が放棄しているのである。ドイツで生活していると、日本の都市問題は「公」の価値が「私」に劣っていることだと感じるが、インドネシアはさらに酷い状況にあると痛感する。

さらに、どうも地方自治体が自分で歳入を増やせる有力な税源は不動産関連税らしい。これはスプロール開発を推進させるインセンティブを地方に必然的にもたらす。話によるとこの税金のノルマを職員に与えている自治体もあるようだ。この制度がある限り、どんな計画を策定しても無駄である。税制度と都市開発は非常に密接な関係があることは、カリフォルニア州のプロポジション13(条例13)の例からも明らかであるが、税制を変えるとなると国会での判断となる。しかし、それを理解し変更するには国会議員達の都市計画への高い知性が求められる。これは日本でもほとんど期待できない現状を鑑みれば、インドネシアでは難しいことかもしれない。

ついでに付け加えると、市長や知事クラスの多くは、開発されそうな土地をすばやく購入してしまう。もちろん、都市計画コンサルタントも買う。この国では、日本と違って都市計画コンサルタントがとても政治力を有している。地図情報なども、市の予算で作成したものであっても、都市計画コンサルタントが保有していて、都市計画コンサルタントの許可がなければ閲覧できない。そういうものの多くは、日本の援助で作成されたりしているので、こちらとしては気が狂いそうになるが、それが実態なのである。

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(マカッサルの宝でもあるロサリ・ビーチ。遊歩道が整備されているが、市街地とは幹線道路によって分断され、この道路がハイウェイのようなものなので渡るのは命がけ。せっかくこんな素晴らしいところがあるのにアクセスできない。この問題は6年前に指摘したが、まったく聞いてくれていない。もったいないと思うのと同時に虚しさも覚える)

上記のようなインドネシアの実態はとても虚しくもなるし、ドイツでの貴重な日々を無駄にすることもないだろうとも思うのだが、それでも少しでもマカッサルの都市環境を、将来をよくするのに貢献できたら、と思って来ている。そして、職員レベルとの交流は歯ごたえを感じる。私を最も過大評価している都市は、世界中で実はマカッサルなのではないかと思われるほどの歓待も受ける。だからこそ、もどかしいのである。インドネシアの都市が駄目なのは、しっかりとした都市計画を遂行できないことでも、人々に能力がないという訳ではない。それが駄目なのは、それをしっかりと遂行できる真っ当なシステムが構築できていないだけなのである。そして、それは我が国にも当てはまる。ただ、インドネシアの方が我が国よりは、まだ単純なので、その問題が見えやすいだけだと思う。

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(マカッサルの美しいランドスケープ)
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