リチャード・レジスターの『Ecocities – Building Cities in Balance with Nature』：アーバン・ダイアリー：SSブログ

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リチャード・レジスターの『Ecocities – Building Cities in Balance with Nature』　[書評] [編集]

本書にはエコシティを実現させるために３０年以上奮闘してきたリチャード・レジスターの興味深い、そしてオリジナリティに溢れた社会批判が詰まっており、それらは本書の価値を高めていることに貢献している。まず、リチャード・レジスターはニュー・アーバニズムを批判する（p.123）。見せかけで「環境」を使っているだけで本質的な解決策からはほど遠いと主張する。まあ、ディズニーランドがその住宅事業を手がけた際に、ニュー・アーバニズムのコンセプトを採用した時点で、ニュー・アーバニズムをマーケティング的に用いることの有効性は明らかであったが、相変わらず舌鋒鋭い。さらにサステイナブル・デベロップメント（持続可能な開発）も、長期的なサステイナビリティを回避させるので始末に負えないと指摘する（p.132）。レジスター節絶好調という感じである。さらに自動車への攻撃は容赦ない。自動車は災害に弱く、また自動車型の都市も災害に脆弱であると指摘する。カリフォルニア州のオークランドの山火事では、自動車のガソリンがまさに火に油を注ぎ、また自動車で脱出する際の混乱や渋滞で多くの人が車内で焼け死んだことを紹介する（p.145）。我田引水になってしまうが、拙著の『道路整備事業の大罪』と同じ捉え方をしていて興味深い。とはいえ、私は地震に対して道路は役に立たないとは考えていたが、山火事もそうであったとは驚きである。まあ、山火事の場合は道路というよりかは自動車が問題なのだが。当然、レジスターは地震時には論外、というか地震があることが明らかなのに道路を整備することは愚かであると指摘している。ついでに電気自動車も攻撃している（p.146）。また、環境保護運動家が無知であるために、エネルギーを多大に消費する都市づくりを推進しているといった批判もしている（p.214）。
　彼には取材をしたことがあり、その結果は『サステイナブルな未来をデザインする知恵』にまとめられているが、そのビジョン、包括的にものごとを捉える鳥瞰能力のようなものには深い感銘を受けたものである。その彼の包括的な考えが本書には詰まっていて、読む価値がある。
　あまり本質的ではないかもしれないが、個人的に興味深かったことは、彼がパオロ・ソレリのアルコサンティが起ち上がった１９７０年の最初のボランティアの一人であったことである。アルコサンティがその後の彼のエコシティのインスピレーションであったことは、恥ずかしながらこの本を読むまでは知らなかった。あとジャン・ジャーディの商業施設をエコシティ的なものとして捉えていたのも興味深かった。商業施設は私的空間であり、公共空間ではない。公共性の高さがエコシティを実現させる大きな推進力であると意識している私からすると、ジャン・ジャーディがエコシティ的であるという指摘には違和感を覚えるが、そこらへんの問題意識をレジスター氏はあまり持っていないのかもしれない。
　あとクリチバの事例が多く紹介され、ジャイメ・レルネル元市長の発言が多く引用されている。ただし、ちょっといい加減な情報が多すぎる。リサイクル率７０％などの数字はどこから取ってきたのだろうか。さらに、開発権移転を１９９０年代にオーランド市から学ぶと書いているが、実際は１９８０年代にニューヨーク市から学んでいる。オーランドの情報はどういうソースから得たのであろうか。他にも「知識の灯台」はレルネル市長時代の事業ではないのだが、レルネル氏の事業として紹介するなど情報に混乱がみられる。ここらへんは、拙著『人間都市クリチバ』やレルネル氏の著書『都市の鍼治療』を参考にしてもらえればよかったのだが、まあ英語しか読めないからしょうがない。とはいえ、間違った情報を書くのは著者としては問題である。
　リチャード・レジスターは素晴らしい発想と行動力を持っており、私は一目置いているが、本書は、それほどは感心できなかった。むしろ『Ecocity Berkely』に比べて彼の理解の浅さが露呈してしまったようで残念である。あと、英語の本には珍しく誤植が多かった。これは英語を母国語にしない読者にとっては辛いと思われる。まあ、聞いたこともない出版社なので、ほとんど自費出版に近い形なのかもしれないが、この誤植はちょっと残念だ。とはいえ、エコシティづくりに３０年間取り組んだ彼の考えは極めてユニークであり、示唆に富んでいる。
　