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『空間演出』 [書評]

 『空間体験』の姉妹本。『空間体験』よりも、むしろ選ばれた事例はより説得力を持っているような印象を受ける。こういう2匹目のドジョウ的な本は、2冊目は1冊目より劣るのが通例だが、これは必ずしもそうではない。むしろ、『空間体験』でなんで入ってないの?と思わせた、グランプラス、ヴェルサイユ宮殿、ポンテ・ヴェッキオ、スペイン階段、修学院離宮、アッシジ、トレドなどが入っている。この2冊は、タイトルも統一して、『空間体験1』『空間体験2』のようにすればよかったと思われる。体験、演出の言葉による事例の差異化は図れていないと思われる。
 さて、ただしこの2冊合わせて、なんとドイツは1事例しか取り上げられていない。アーヘンの大聖堂、ケルンの大聖堂、シュパイヤーの大聖堂、どれか一つぐらい入ってもいいと思うし、ロココの傑作であるヴィースの巡礼教会かヴュルツブルグ司教館が入ってもいいと思うし、ノンシュバインシュタイン城かヴァルトブルク城などの城がないのも不思議だ。中心市街地でもリューベックやシュヴェーリン、ローテンブルグ、アイスレーベンなどは非常に魅力的だし、ポツダムのサンスーシ宮殿だって、その空間体験は特別なものである。建築でもヴァイマルとデッサウのバウハウス関連は素晴らしいものがあるし、ベルリンには興味深い建築がたくさんある。ドームなんて秀逸だ。シュツットガルトのヴァイセンホーフ団地なんかも充実した空間体験ができる。広場という観点からだって、ゴスラー、ブレーメン、ゲーリッツ、ツェレなどは特別なものがあると思う。バンベルクやレーゲンスブルクなどまだ見たことがなくて素晴らしい公共空間を有している都市もあるから、なんか画竜点睛を欠いている印象を受ける。
 そもそも私がドイツに住みたいと思ったのは、この素晴らしい空間体験がしょっちゅうできるからと思ったからであり、そのドイツから1事例しか挙げられていないのは残念だ。さらに、私が素晴らしい空間体験をすることができたプラハ、ブダペストを擁するチェコ、ハンガリーは全く無視されているし、コペンハーゲンのストロイエも外されている。逆にフランスやイタリアは二桁以上の事例が取り上げられている。
 ううむ、どうも著者達はラテン好きなのかと思わせられる。この本自体は素晴らしい企画で、大変楽しみながら読ませてもらったが、その選考基準に関しては大いなるクエッション・マークがつく。

空間演出―世界の建築・都市デザイン

空間演出―世界の建築・都市デザイン

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 井上書院
  • 発売日: 2000/11
  • メディア: 単行本



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