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「豊かさ」の誕生 [書評]

ウィリアム・バースタイン著の『「豊かさ」の誕生』を読む。まず、指摘したいのが、翻訳が優れていることだ。最近、あまりいい翻訳の本を読んでいないからかもしれないが、訳者の徳川家広氏の翻訳は素晴らしい。数点、意味がわかりにくいところもあったが、それにしても全般的には大変読みやすく、原著の内容を丁寧かつ的確に日本語に表現してくれている。プロである。あらためて、翻訳者が優れていることが、良質の本をしっかりと理解するうえでは不可欠であるなと思わせられる。

さて、本の内容であるが、3部から構成されている。1部は経済的な豊かさは4つの条件、すなわち私有財産制、科学的合理主義、資本、動力が揃うことで初めて実現されるといった仮説の提示とその検証が歴史を紐解くことでなされている。著者の凄まじいほどの知識に圧倒され、一気に読み通させる迫力に溢れている。2部は、この仮説に基づいて、歴史的に豊かな国はこの条件を満たし、貧しい国は満たさなかったことが論述される。日本も事例として挙げられていて、ちょっとそうかなと思わせられる点もない訳ではないが、ここも著者は説得力を持っており、経済史の楽しさを満喫できる。3部は、豊かさのもたらすものは何かということを分析するのであるが、この部では急に著者の意見は曖昧さを持ち始め、それまでの快刀乱麻のごとく舌鋒鋭い文章も自信なげなものになってしまう。特に最後の2章は、結局何も分からないということなのか、と思わせられたりする。この最後の2章は蛇足のような印象さえ受ける。

とはいえ、全般的には人類の発展と経済の文明史を壮大なるスケールで展望してみるという大変なる労力が伴う力作であり、読み応えも十分であった。このような本をまとめた人が学者や作家ではなく投資家であるということにも驚いた。投資家というのは目の前の株の上下を気にするのではなく、このような大局観をもって相場を睨んでいるのだとしたら、凄いことである。


「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

「豊かさ」の誕生―成長と発展の文明史

  • 作者: ウィリアム バーンスタイン
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本



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