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自動車の乗り入れが禁止されている美しき町ヴェンゲンを訪れる [都市デザイン]

ヴェンゲンという観光地がスイスのベルナー・オーバーラントにある。ここは自動車の乗り入れが禁止されている。禁止されている根拠はラウターブレネンの自治体の条例であり、ここヴェンゲンとミューレンという町では自動車が運転できるのは、観光業者とタクシーだけだそうだ。これらの町にアクセスしたい場合は、谷間のラウターブレネンで自動車を置いて、公共交通手段によって移動するしかないそうだ。ホテル業者の多くは、この自動車も電気自動車を用いている。気づくのは家に駐車場がないということ。そして、山間の村でそもそも平らの土地がないからというのもあるのだろうが、道幅は相当狭く、日本を彷彿とさせる。さらに、自動車の走行音が滅多に聞こえないので、非常に静かに感じることである。もちろん、町の賑わいや人々のざわめきなどは聞こえるのだが、これらは結構、耳に優しいということに気づく。それまで、いかに自動車の騒音に我々の音環境は害されていたのかということがこの町にいると分かる。

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(山腹にあるヴェンゲンの集落)

ヴェンゲンはイギリス人に人気があるそうだ。アメリカ人や日本人はグリュンデルヴァルトの方に向かうらしい。グリュンデルヴァルトの方がヴェンゲンより斜面がなだらかで雄大である。町もヴェンゲンの方がはるかにコンパクトである。ヴェンゲンは平地がほとんどなく、鉄道駅も橋梁駅のような状態である。まあ、どちらにもそれぞれのよさがあるだろうが、高い山がないイギリス人は、この斜面のきつさとラウターブレネンの深い渓谷を見下ろせるこの町を気に入るのかもしれない。

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(ヴェンゲンの駅からの光景)

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(急斜面の中に肩を寄せ合うように立地するヴェンゲンの集落)

さてヴェンゲンもミューレンもそうだし、ツェルマットもそうだが、この自動車乗り入れ禁止のスイスの観光地は結構、賢いと思われる。というのも自動車で乗り入れできないと必然、電車を利用することになる。電車に大きな荷物を持って移動するのは自動車と違って大変面倒臭いので、必然、これらの町のホテルに泊まることになる。大きな荷物から解放されたいと思うからだ。自動車でアクセスできないことで、観光客のモビリティは公共交通に制限され、それによってこの周辺での滞在性が高まる。滞在性が高まるということは、この地域の高い観光地価格で用を済まさなくてはならないということだ。それはそれで、出費する方は痛いが、まあ、このコンテンツの高さを考えると致し方ないと思う。日本の観光地は自動車でのアクセスの利便性を高めることが、観光客を増やすと思いがちだが、スイスのここらへんの観光地は、むしろ自動車でのアクセスを悪くすることで、回遊性を低めて、観光客がお金を落とすように仕組んでいるのではないかと推察したりする。ここらへんに関しては、またいろいろと調べていきたいと思っている。

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(駅前広場)

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(電気自動車が駅からホテルまでトランクなどの荷物を運んでくれる)

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