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新書発売を記念して、没原稿を何回かに分けてアップする(3) [道路整備事業の大罪]

一昨日、昨日に続いて、6日に発売される新書を記念して、没原稿をアップする。ちょっとしつこくなってしまい恐縮だが、選挙前に是非とも手にとってもらえればと思っている。そのための過激なタイトルである。宜しくお願いします。


道路整備事業の大罪 ~道路は地方を救えない (新書y 220)

道路整備事業の大罪 ~道路は地方を救えない (新書y 220)

  • 作者: 服部 圭郎
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2009/08/06
  • メディア: 新書



それでは、没原稿3号(しつこいのでこれで最後にする。田中角榮が道路利権をつくったという指摘は正しいと思われる。しかし、彼は別に道路に拘っていた訳では全然なかった。その点を指摘した箇所が数点あったのだが、残念ながら字数の関係でカットされている。私は角榮は道路といった視野の狭い考えに囚われたわけでは決してなく、より国土、地方のことを考えていたと捉えている。しかし、その後継者は道路の利権にだけ、その政治的旨味を感じ取り、バランスの欠いた国土基盤政策を実施していく。というのが私の意見なのだが、そのことは全般的にカットされてしまったので、ここに再掲させてもらう)。

現在のわが国の道路利権を拡張させた張本人とも指摘される田中角榮だが、必ずしも地方における道路整備ばかりを主張していたわけではない。田中は「中央と地方との格差」を是正することを目的としており、道路を整備するというのはその手段として捉えていただけである。たとえば、豪雪地帯においては道路を整備するより、鉄道のローカル線を維持したほうがいいと言及している。
「豪雪地帯における赤字地方路線を撤去し、すべてを道路に切り替えた場合、除雪費用は莫大な金額にのぼる。また猛吹雪のなかでは自動車輸送も途絶えることが多い。豪雪地帯の鉄道と道路を比較した場合、国民経済的にどちらの負担が大きいか。私たちはよく考えなくてはならない。しかも農山漁村を走る地方線で生じる赤字は、国鉄の総赤字の約1割にすぎないのである」(『日本列島改造論』)
このような記述を読むと、田中角榮の意志に反して地方ではローカル線が廃止されたのに、他方では道路整備が推進されてしまったことは残念ともいえる。道路利権というパンドラの箱を開けたといわれる田中角榮だが、実際は、地方と中央とのギャップの解消こそが目的であり、むしろ状況によっては道路より鉄道のほうが優れているといった持論も展開していたのである。

(中略)

現在の官民協働の道路整備システムを構築した田中角榮は『日本列島改造論』で次のように記している。
「私が日本列島改造に取組み、実現しようと願っているのは、失われ、破壊され、衰退しつつある日本人の“郷里”を全国的に再建し、私たちの社会に落ち着きとうるおいを取り戻すためである」
 その手段として全国的な高速交通網の確立を図り、それを推進させる法体系、制度を構築していく。だが、田中角榮自体は特に道路にこだわっていたわけではなかった。
 しかし結果的に、角榮を引き継いだ人々は、他の交通施設に比べてはるかに利権をもたらす道路だけの必要性を強調し、道路を中心とした交通網の整備に邁進する。そして、その結果、角榮が願った「郷里の再建」は実現されず、地方はより破壊され、衰退の一途をたどっていくのである。

以上である。田中角榮から綿々と引き継がれている道路利権のコングロマリットを、多少でも揺さぶることができるかもしれないのが、今度の選挙である。しつこくて申し訳ないが、この極めて顰蹙を買うタイトルも、選挙前に是非とも手にとってもらいたいという気持ちから、出版社の意向に首肯することにした。ということで、宜しければ読んで下さい。

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