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池内紀の『ドイツ町から町へ』は良質のドイツ紹介本である [書評]

 ドイツ関連の本を、時間をつくって読むようにしている。小塩先生の『ドイツの都市と生活文化』という本に関しては、そのくだらなさを以前、ブログに書いたが、それに比してこの池内先生の『ドイツ町から町へ』(中公新書)は、ドイツという国家、文化像が、個性ある数々の町の描写を通じて浮き彫りになっていくという良質のドイツ紹介本である。ドイツの魅力というのは、その多様性にあると思う。そして、その多様性を発露しているのは個性的な町であることは間違いないと思う。ルール工業地帯という狭く、産業構造的にも同一性の高い地域においても、デュッセルドルフ、ドルトムント、デュースブルク、ウッパータル、エッセン、ボーフムといった都市はそれぞれの個性がある。これをドイツ全体に広げれば、まさに羅紗に色とりどりの宝石を散りばめたような魅力を放つ。そのドイツという国家の特徴を、観光ガイドのような76の町紹介を通じて描くことに本書は成功している。著者の類い希なる筆致力と観察力が伺える。
 同時期に『ドイツを知るための60章』(明石書店)も読んだ。これは駄本の類である。60章もあるのに、筆者の専門分野に偏っており、妙にドイツ哲学にページが割かれていたりして、包括的に捉えられていない。この60章シリーズ(たまに55章とか43章とかになったりするが)は結構、評価していたので、ドイツ版はがっかり。特に編者の早川東三氏が記述した章はひどい。偏見と狭窄的な経験とから全体像を捉えようとするためにどうしても無理がある。特に都市の紹介のところは酷い。これは池内先生と好対照である。それは、専門的な知識の欠如というか、都市を捉える視座がしっかりとしていないのに加えて、観察力が今ひとつだからである。小塩先生と同じ間違いを犯している。どんな人だろうと編者紹介をみてみると、学習院女子大学長であった。東大の仏文科を出ており、まさに小塩先生と同じような経歴の持ち主だということで驚く。
 とはいえ、私が指摘するまでもなく、両先生とも観察力と調査力がないことは、近年出版されているドイツのルポルタージュ系の本と比較すれば明らかである。高松平蔵の『ドイツの地方都市はなぜ元気なのか』や、多少オタクというか専門的な分野に過ぎるかもしれないが阿部成治の『大型店とドイツのまちづくり』、今村みね子の『ここが違う、ドイツの環境政策』などの本である。これらの本は、両先生などの記述に比べて、はるかにしっかりとした観察力と地道な市民レベルでの取材をベースにしているので読んでいてドイツ理解の助けになる。これらの本はまた、このブログで紹介したいと思っている。


ドイツ 町から町へ (中公新書)

ドイツ 町から町へ (中公新書)

  • 作者: 池内 紀
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2002/11
  • メディア: 新書



ドイツを知るための60章 (エリア・スタディーズ)

ドイツを知るための60章 (エリア・スタディーズ)

  • 作者: 早川 東三
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2001/08
  • メディア: 単行本



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