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『都市再生「バルセロナ・モデル」の検証』を読み、バルセロナの優れた都市をつくりあげるしっかりとした都市計画的思想に感銘を受ける [都市デザイン]

岩波書店から2005年に刊行された『持続可能な都市』の一つの章『都市再生「バルセロナ・モデル」の検証』を読む。千葉大学で教鞭を執る岡部明子氏によって書かれている章だ。岡部氏は以前から私と都市問題へ向ける眼差し、視点が似ていると思っていた。他の都市計画関係の専門家とは違う、私と同じような体温を感じていた(こういうことを書くと岡部氏は嫌がるかもしれないが)。その共通性は、都市における公共性の捉え方、特に生活コミュニティにおける公共性の重要性に関する認識、プラクティカルなアプローチを重視する考え方などで強く感じられる。その彼女がバルセロナの都市計画的歩みを整理したのが、ここで挙げる論文である。

バルセロナは私が最も好きな都市の一つである。ランブラス通りを象徴とする歩行者主体の公共空間、ボケリア市場が発露する都市の活力、ウォーターフロントにおける都市デザイン、グルエ公園からの見事な展望、そしてこれらを彩るサグラダ・ファミリアを始めとするガウディやドメニクといった天才建築家によるランドマークや建築物や広場。私にとって、最も「都市」というイメージを喚起させる都市である。そのバルセロナが、しかし、今のような状況になったのは、極めて戦略的な都市計画を遂行したことと、市民の人々を積極的にネットワーク化させ、市民共同体意識を都市の改善へと繋げるプラットフォームを整備したためであることを知る。
 岡部氏はバルセロナの成功を支えている思想は、「強い計画権限と前近代的な形態規制の継承に加えて、「都市とは共同体の発現である」という揺るぎないコンセンサスだ」という。バルセロナを始めとするヨーロッパの都市は、「古代ギリシア・ローマ以来の伝統で、市民みなで都市という制度を管理運営していくことを基本としている」。そして、「バルセロナ・モデルは、共同体の利益を優先させるという都市共同体思想の上に開花している」と言及する。そして、公共空間の都市デザインを都市づくりに巧みに活用するのだが、その背景には、「都市の社会的結束を促す公共空間を充実させることが、市民社会全体の利益につながるというコンセンサスがある」という。

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ウォーターフロント
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ガウディによるバドリョ邸
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サグラダ・ファミリア
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グルエ公園から市内を望む
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ボケリオ広場
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ランブラス通り
 
年を取ったせいだろうか、最近、日本の都市が結構、好きである。昔は日本の都市景観は汚いし、再開発されたところは機能主義で嫌いだった。この嫌いな日本の都市をどうにかしたいと思って留学をしたりしたのだが、最近は、日本の都市がそんなに嫌いではなくなっている。門前仲町なんて、昔だったら何だこの汚い空間は、と思ったりしたものだが、この頃は味がある空間だ、と思ったりする。このように日本の都市が駄目で、西欧の都市は素晴らしい、という対立軸で捉えるようなことはしなくなったのだが、それでも、バルセロナとかクリチバ、フライブルグといった都市の計画遂行力は日本のそれとは比較にならない。森ビルのような巨大デベロッパーによるトップダウン的な都市開発や、道路行政のような土建業者のために実施する開発のための開発ではなく、市民レベルでの視点での都市計画を遂行する力において、日本とこれらの都市には大きな隔たりがある。岡部氏は「原点となる市民共同体意識が我が国の都市再生には欠落している」と述べているが、同感である。この市民共同体意識、すなわち、都市は公共性が豊かであるほど魅力を放つ、ということが日本はあまりにも理解されていないと思う。もっと公共性の発露を都市計画において戦略的に位置づけることが、バルセロナのような魅力ある都市を創造するうえでは必要である。いろいろと日本の都市計画、都市政策の問題点をも考えさせてくれる優れた論文であると思う。


持続可能な都市―欧米の試みから何を学ぶか

持続可能な都市―欧米の試みから何を学ぶか

  • 作者: 福川 裕一
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/04
  • メディア: 単行本



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