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竹富島 [都市デザイン]

 島全体が国立公園である竹富島を訪れる。石垣港から船で、15分程度で着いてしまう。竹富島は周囲9.2キロメートルの珊瑚礁から出来た島だ。人口は約340人。

 南島文化の典型的な農村集落であり、「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」「生かす」を基本理念とする竹富島憲章を制定したことで知られ、昭和62年には重要伝統的建造物群保存地区に指定された。この憲章の5つの基本理念は極めて示唆深い。その生活風土を次世代にまで持続するための知恵に溢れており、これは三浦展が指摘するファスト風土化を阻止するうえで大きな効果が期待できるとも考えられる。なかなか気付きにくいと思われるが、説得力があるのは「売らない」ということである。「売る」というのは、自らの生活風土、伝統的なライフスタイルといったものを商品化し、投機対象とすることである。そうすると、あっと言う間に市場経済の荒波に呑み込まれてしまう。下北沢の道路も、金町の駅前の再開発も多くの地方都市の郊外におけるショッピングセンター開発も皆、地主といったステーキホルダーが土地の投資価値を見込んでいるから反対できないのである。というか、開発が頓挫したら困るのである。それは、しかし地主が土地を売れなければ市場経済の悪魔に魂を売るという誘惑に負けることもなくなる。これを一番、初めに持ってきた竹富島の住民は随分と賢明である。「汚さない」、「壊さない」というのは分かりやすい。興味深いのは「乱さない」である。コミュニティとしての調和を重視する視点がうかがえる。街を歩いていたら面白いものに出くわした。沖縄電力に対する抗議の立て看板である。しかし、その立て看板の隣に、その看板を設置した住民に対してのコミュニティとしての抗議の文章が掲示されていた。それは、このような醜い立て看板は竹富島の精神に反するから撤回しろ、という内容の文章であった。「乱さない」という価値観を重視する竹富島らしい文章である。とはいえ、こういう立て看板があること自体、憲章はあるが住民の態度は一枚岩ではないことを示唆している。

 「生かす」もファスト風土化を防止するうえでは重要だ。なぜなら、既存の生活スタイル、伝統的価値観を過去の物へと風化させない絶え間ない努力、日々の積み重ねこそが、その地域の風土を次世代へと引き継ぐ最大そして唯一の方法論となるからである。これは、例えばアメリカの歴史保全都市チャールストンでも工夫されている点である。チャールストンでは、歴史地区を保全するために、デザイン・ガイドラインを設けずに、歴史保全委員会の委員がその都度、設計変更や新たに建築を計画するときに会議を行い、検討するようにしている。それは、デザイン・ガイドラインを設けてしまうと、その時点で、保全の理念が形骸化してしまうからである。常に、その理念を再確認するという過程を取ることで、常に、その考えを新たにすることができる。また、それは歴史保全という考えを現在に「生かす」方法論でもあるのだ。守勢にまわらずに、責めの姿勢での歴史文化の保全、そして維持、そのためには既存の資源や理念を「生かし」続けることが重要であり、それによってグローバル経済の荒波を乗り越える道筋もみえてこよう。

 竹富島は、素晴らしいと手放しで褒めるようなレベルではないが、相当、街並みがしっかりとしており、美しい。その街並みの美しさを勝手に考察すると、ポイントは3つあると思われる。まず、道路。道路は海岸から砂を年に2回ほど持ってきて敷くようである。アスファルトではない、この土地特有の道路景観がつくられていて心が落ち着く。そして石垣。石垣は珊瑚石灰岩でつくられている。この珊瑚の石垣から草花が生えていたりすると心が和む。自然と人間の生活が共生していることが分かる。最後は屋根をはじめとした建築様式が街並みで統一されていることだ。赤瓦の屋根だけでなく、屋根の上にシーサーが載っていること、前庭のつくり、といった住宅のつくり方の共通性が、この空間にリズムと調和を生み出し、街並みの魅力を創り出している。
 これらにポイントに加えて、街の空間が定義づけられていることがこの集落のアイデンティティを高めている。集落は島の中心に集積しており、ヨーロッパの城郭都市のようになっている。ある意味で、素晴らしく、かつ効果的なサステイナブル・コミュニティである。


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