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ホイヤスベルダードイツ縮小御三家の炭鉱都市 [都市デザイン]

ホイヤスベルダは、旧東ドイツの縮小都市御三家である。残りの二つは、このブログでも紹介したアイゼンヒュッテンシュタットとシュベードである。アイゼンヒュッテンシュタットは鉄鋼業、シュベードは製紙工業と、どちらも旧東ドイツに計画的につくった産業都市である。この二つは既に訪問したことがあるので、今回のドイツ旅行では残りの一つであるホイヤスベルダに是非とも訪れたいと考えていた。ということで、訪れましたホイヤスベルダ。ホイヤスベルダは、コットブスとドレスデンのゴーリッツを頂点とする三角形の重心あたりに位置する。旧東ドイツ時代に、炭鉱都市として小さな村だったところを拡張した。

ホイヤスベルダは人口が最盛期で7万人もあった。現在は4万人と4割以上減少している。アイゼンヒュッテンシュタットやシュベードよりも大きいのである。ホイヤスベルダは旧都市と新都市とから構成される。これら旧都市と新都市はその間を流れる川によって隔てられている。社会主義になってから、都市はまず、旧都市を中心に発展していった。そして、その後、旧都市の東側、川向こうの新都市へと拡張していくのである。ただし、拡張していく際に、新都市にも新たな都心をつくった。ホイヤスベルダは、近くにある炭鉱で働く人のために計画的につくられた都市である。スクールバスのように、各団地にバスが走り、従業員を拾って炭鉱まで運び、帰宅時には団地前まで運ぶ、といった交通サービスを提供していたのだが、今ではそういうサービスはない。新都市の地区は発展していった時期で1〜10まで区分けされている。ここらへんはアイゼンヒュッテンシュタットと同様である。

そして、アイゼンヒュッテンシュタットと同様にホイヤスベルダも積極的に非建設(ディコンストラクション)を行っている。この非建設の方法であるが、これもアイゼンヒュッテンシュタットと同様に、最も新しく建設したところから壊している。

新しい団地から壊すことには二つの理由がある。一つ目は、都心から離れていること。開発は都心の周辺から進められたために、新しく開発されたものほど都心からは慣れている。アイゼンヒュッテンシュタットと同じ理由だ。そして、二つ目は、新しく建てられたものの方が、住宅の質が悪いこと。これは旧東ドイツ時代では末期にはお金がなくなってしまい、いいものを建てられなくなってしまったからである。最後の方では高層のプラッテンバウがつくられなくなるのだが、これはエレベーターを設置するお金もなくなってしまったからである。これもアイゼンヒュッテンシュタットと同じ理由である。しかし、問題は、併合後にまさかこんなに劇的に人口が縮小するとは思わなかったので、これらの新しくつくられたプラッテンバウの中にリノベーションを施したものがあることです。実際、それを訪れてみたが、非常にお洒落にリノベーションがされており、高齢者の人達が窓から談笑して楽しそうにしているのが見れた。このように下手にリノベーションをしてしまったことは、その地区全体を取り壊しできなくなるために頭が痛いと取材に応じてくれた住宅公社のフィエツゼックさんは述べていた。ちなみに、住宅を管理しているのは、住宅公社と市役所である。主体が二つしかないのもアイゼンヒュッテンシュタットと同様で、この所有状況が簡明であることは、縮小計画を実践するうえで不可欠だと思う。

さて、それではこの住宅を取り壊した後、どうするのか。フィエツゼックさんは「森に戻すだけです(リフロストレーション)」と事もなく言った。以前は森だから、森に戻すだけということだ。私は、それはなかなか賢明だ、と感心したのだが、同行したベルリン工科大学の講師であるフランクは、「信じられない」と結構、憤懣やるかたない、という感じであった。いくら何でも森ではないだろう、何か考えるべきだ、と思っているらしい。しかし、私はこの時計を戻すようなアプローチはいいと思うし、夕張とかの日本の縮小都市でも使える考え方だと思う。それは、まさに撤退の都市計画である。

しかし、どのビルを壊すかは公にしないようにしている。ライプチッッヒやシュベードなどは、人々が縮小の概要を知ってしまったために、不平不満が溜まった。そういうことがないように、ホイヤスベルダでは人々が不安を持たないように、粛々と取り壊しが進むようにしている。

ホイヤスベルダは結構、うまく撤退を行っているようで、取り壊していないプラッテンバウの空室率は非常に少ない。1%や2%というレベルである。これは、どんどんと住宅を取り壊し、取り壊しの対象となった建物から、残す建物へと人を移動させているからである。しかし、この人の移動はなかなかダイナミックなプロセスで難しい。ベッドルームが4部屋であったアパートから2部屋のアパートに移ることは難しいし、1階に住んでいる人は5階に住むことに抵抗があるからだ。

また、もう一つの課題は、人口はさらに減少していくので、そのうちまた取り壊しと検討しなくてはなるということである。現在4万人の人口は3万人になると予測されている。とはいえ、また3万人で留まることも保障できない。この人口流出はどのようにして止めることができるのだろうか。現在、社会資本整備を中心に、旧東ドイツに連邦予算は集中的に投資されている。しかし、どんなに道路などが立派になろうと人は流出を止める気配を見せない。このような贅沢ができるのも旧西ドイツが豊かではあるのだが、その豊かさも、この浪費が続けばそのうち喪失してしまう。しかも、ホイヤスベルダはネオナチが多いなど社会的にも問題を抱えている。縮小を円滑に遂行することの難しさを知る。



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