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リヒャルト・ディートリッヒに取材する [サステイナブルな問題]


今回の出張のイベントの一つであるリヒャルト・ディートリッヒに会いに彼の自邸まで向かう。ディートリッヒ氏といえば生態建築学を提唱した大物である。こんな大物に勝手に取材を申し込む自分は何物なのか、と思いつつも取材を承諾してもらったのではるばるチューステンというミュンヘンよりザルツブルグの方が近い山間の町へローカル列車で向かう自分がいる。ディートリッヒ氏はNBAの選手のような巨大な男であった。彼の車で自邸まで連れて行ってもらったのだが、この自邸は10ヘクタールというこれまた広大な家であった。地平線の景観までをコントロールしたかった、と彼は言っていたがスケールが大きい。また、サステイナブルなことを言うためには自分の生活がサステイナブルにならなくてはね、とも言っていた。と同時に、しかし皆が私のような生活が出来る訳ではないので、都市はサステイナブルにならなくてはと自分で突っ込んでいた。そうでしょう、そうでしょう。私は1000年働いても、このような土地が購入できるとはとても思えない。

ディートリッヒ氏は大物にしては、非常に饒舌であった。昼食を家族と共にした。ディートリッヒ氏の娘さんは驚くくらいの美人で、クラウディア・シーファートかと思ったくらいである。そういえば、奥様も昔、美人であったような面影が。ううむ、10ヘクタールの土地をバイエルンの風光明媚な場所に持って、美しい女性たちに囲まれて、ディートリッヒ氏羨まし過ぎる人生だ。しかし、ディートリッヒ氏は思いの外、挫折感が強く、彼の考えが普及せずに、アメリカ的商業主義に負けてしまっていることを強く悔やんでいた。やはり戦争に負けたのが痛かった、というようなことも言っていた。ヒットラーさえ生まれなければなあ、と悔やんでいた。日本は、アメリカに戦争をしなくてはならないように追いつめられて、本当酷いことをされたよねえ、というようなことも言っていた。確かに。しかし、日本も韓国を植民地にしたり、中国で大勝手をしていたから、まあ必ずしもアメリカを責めることはできないんだけどね。しかし、アメリカのいいようにはされましたなあ。というような四方山話を昼食をはさんで思わず5時間以上もしてしまった。

しかし、そのような四方山話の中に、ディートリッヒ氏はミュンヘンのまたさらの田舎町に来ただけのある非常に貴重な話をしてくれた。一つ目は、やはり高層ビルはよくないということ。二つ目は、建築家のエゴが都市をどんどん悪くしているということ。三つ目は、コルビジェの考えを何しろ早く捨てることが重要だということ。四つ目は、何しろアメリカ商業主義をどうにかするしかないのだが、敵はおそろしく強大なこと。五つ目は、もう将来はどうにもならなくて状況を変えるためには崩壊を待つしかないこと。

まったく反論できない。その通りです。一つ目は、とりあえずすぐできる。高層ビルをつくらなくても素晴らしい都市をつくりあげたミュンヘンという実例をドイツは有している(正確にはBMWのビルとバイエルンで最大の銀行のビルは結構、高層である。しかし、こいつらは特別だからしょうがないとディートリッヒ氏も言っていた)。二つ目は、これは建築家の教育しかないでしょうね。あとメディアが悪い。変なことすると取り上げるから、変なことばかりを皆、競ってする。ディートリッヒ氏はフランク・ゲーリーを随分とけなしていたけど、まったくその通りだと思う。というかフランク・ゲーリーよりも彼を英雄視してしまうメディアが本当は悪いんだけどね。三つ目は、本当これは特に日本人に言えることですが、コルビジェをあまりにも過大評価し過ぎている。と、こういう風に書くと、ちょっとびびる私がいるくらい、日本人のコルビジェ信仰は根強い。まるでコルビジェのことを悪く言うのは、天皇陛下の悪口を言うような勇気が必要である。アラン・ジェイコブスの悪口を言いすぎであると親切に私に忠告する人がいるこの日本で、本当コルビジェのことを悪く書くのは気が引けるが、まあこれはディートリッヒ氏の意見ですので。私は、ちなみにこのディートリッヒ氏の意見はとても的確であると感じている。新しいテクノロジーが出現した時、それを最大限に発揮させるための一つの方法論としてコルビジェが呈示したアイデアは革新性をもったものであった。しかし、それを鵜呑みにしてつくられた都市であるブラジリア(また、このブラジリアの悪口を書くだけで怒る人がいるんだよなあ)やシャンディガールがあれだけ失敗したんだから、軌道修正をしてもいいと思うんだけど、日本人は不勉強にもお台場やなんたら副都心みたいなもんばかりつくっているからね。これは、もう本当に脱コルビジェをしてもらうしかない。私がアメリカに留学していた時でさえ、もうアメリカ人は脱コルビジェをしていた。というか過去の遺物ですよ。早く卒業しましょう。四つ目は、もうどうしたらいいんでしょうか?とりあえず、私も書いている今度刊行される「ファスト風土」の処方箋でも読んで危機意識を高めるしかないでしょうか。五つ目は、もう本当絶望的な意見だけど、状況を分析するとそうなるしかないんだよねえ。とはいえ、ディートリッヒ氏も初孫が出来たばかりでそうも呑気に崩壊とかいってられないんじゃないの、と突っ込もうとして、彼の10ヘクタールの家では鱒を養殖で飼ったり、馬も3匹いるし、なんか家畜もいそうだから大丈夫だということに気付いた。そうか、崩壊するのは我々なのだ。うかうかしていられない。とりあえず、そのうち刊行される私の新著「サステイナブルな未来をデザインする知恵」を読んで下さい。


サステイナブルな未来をデザインする知恵

サステイナブルな未来をデザインする知恵

  • 作者: 服部 圭郎
  • 出版社/メーカー: 鹿島出版会
  • 発売日: 2006/04/14
  • メディア: 単行本



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